ウォール街で今、最も注目を集めているのは、11月8日に行われる米大統領選の行方だ。不確実性を何より嫌う世界金融の中心地では何が起きているのか。”米国で最も影響力のある金融ジャーナリスト”で「ニューヨーク・タイムズ」コラムニスト・編集者のアンドリュー・ロス・ソーキンに話を聞いた。
ーウォール街の最新潮流を教えてください。
アンドリュー・ロス・ソーキン(以下、ソーキン):まず挙げたいのは、米国の株価が横ばいを続けており、大規模な米ヘッジファンドの多くが損を出していることだ。大手ファンドは金融市場で最大の成長株の一つだったが、現在はその成長や将来に大きな疑問符が付いている。
現在、米ヘッジファンド業界の運用資産規模は3兆ドル近くに達し、1990年代以降、何倍にも成長した。だが、今後は統合が進み、大手ファンドの閉鎖が相次ぐ可能性が高い。ビル・アックマンが創業者兼最高経営責任者を務めるニューヨークのパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントなど、20%超の損を出した大手ファンドも少なくない。長年の儲けが吹き飛んでしまったも同然だ。
一方、多くのファンドマネジャーが高額な手数料を取っていることを考えると、ヘッジファンド業界のビジネスモデル自体に大きな疑問符が付いている。米最大手年金基金のなかには、ヘッジファンドに投資すべきか考えあぐねているところも多い。ファンド業界は、これまでの報いを受けることになるだろう。
ーほかに目立った潮流はありますか。
ソーキン:大統領選挙を控え、経済全般が停滞していることだ。歴史をひも解くと、現職大統領が2期目で、もう立候補しない場合、大統領選が行われる年の株価は低迷傾向にある。つまり、今年後半も横ばいが続くことが予想される。
企業も投資を手控えている。次期大統領は誰か、大統領選と同時に行われる上院選挙の行方がどうなるか、税制や規制政策がどう変わるかなど、成り行きを見守っているのだ。そのため、合併や新規株式公開(IPO)も少ない。
それもこれも、「不確実性」はウォール街の敵だからだ。自社の企業価値に不安があれば、他社の買収には動かない。身売りにも慎重になる。IPOが減れば、スタートアップにも影響が及ぶ。シリコンバレーには、評価額10億ドル以上で、おそらく実際の価値を上回るベンチャー企業「ユニコーン」が数多く存在するが、今後、大きく低迷するだろう。