BGMが流れる大きなオープンスペース型の倉庫兼オフィスには、アーティストやスタートアップ関係者など、若い世代から絶大な人気を誇るブルックリンらしさが漂う。入り口の大きなソファには “Material Wrld”の社名が入ったクッション。ガラスラックにはワインやシャンパンが何本も置かれている。
「スタートアップなので、毎週金曜日にはハッピーアワーがあるんです」
こう言って笑うのは、ウェブベースのファッション系ベンチャー、マテリアルワールドの共同創業者、矢野莉恵(34)だ。ハーバード大学ビジネススクール(HBS)で知り合った、1歳年下のジー・ツェンとともに、卒業から2年後の2012年、同社を立ち上げた。
HBSでは金融危機以前、ウォール街や経営コンサルティングの仕事が圧倒的人気を誇っていた。
だが、近年は、スタートアップ企業の立ち上げや急成長ベンチャーへの就職を進路の一つとして考える学生が増えている。「多くの学生が、スタートアップ企業に見られるようなシリコンバレー風のライフスタイルに引き付けられるようになっている」と、HBSのウィリアム・R・カー教授(専門は起業論やイノベーション)は言う。
大手IT企業の広大なキャンバスや広々とした道路こそないものの、マテリアルワールドをはじめ、ニューヨークのスタートアップ企業にも、ハッピーアワーやフリーランチなど、若い世代にアピールするような「シリコンバレー風ライフスタイル」はしっかり根付いている。
世界第2のスタートアップ都市
金融危機後、ブルームバーグ前市長が、第2のシリコンバレーを目指すテクノロジー構想を推進したこともあり、今やニューヨークは、シリコンバレーに次ぐ、世界第2の起業都市だ。
ニューヨークのベンチャーキャピタル(VC)情報サービス会社、CBインサイツのテクノロジー業界アナリスト、ニキル・クシュナンによると、ニューヨークでも、他の主要都市のスタートアップコミュニティーを引き離している。
「ニューヨークには、こうしたセクターの大企業があるため、提携先を探すスタートアップにとっては重要な拠点になっている」(クリシュナン)