パリやロンドンなどと並び、ニューヨークにはファッション系ベンチャーも目立つ。CBインサイツによると、ニューヨークで2011〜15年に行われたVC支援取引のうち最大のものは、昨年、新規上場したファッション系eコマース・ベンチャーのEtsy(エッツィー)だ。
マテリアルワールドも、創業後数年もたたずに、売上高が1年間で13倍増を記録(15年)、累計資金調達額は1,300万ドル(約13億円)に達するなど、早くもニューヨーク・スタートアップ界の注目株になりつつある。
同社の売りは、ブランド品の古着の「トレード・イン(下取り)」サービスだ。 顧客は、下取り料が入金された同社専用のデビットカードを使い、サックス・フィフス・アベニューやバーニーズニューヨークといった米百貨店チェーンやブランド店など、900軒を超える提携先で買い物を楽しめる。
ファッション業界を巻き込むことで、消費者だけでなく、従来古着を嫌う業界にも価値を生み出すシステムを構築。ツェンによれば、同社による業界売上高への押し上げ効果は500万ドルにのぼる(15年)。
消費者は、ウェブサイト上で、不要になった服を手軽に下取りに出すことができ、そのお金を次の買い物に還元できる。古着を再販市場で循環させることで、定価では買えない若い世代がブランド品を楽しめる。環境に優しく、サステナビリティ(持続可能性)にも富んでいる。
女性は、キャリアチェンジや出産など、人生の節目ごとに服の好みや傾向が変わることが多い。服は、自分が変わりたいと思ったとき、「それを手助けしてくれるツール」(矢野)だ。
人生の課題は「リインベンション」
マテリアルワールドのサイトにアクセスすると、5番街の写真をバックに”Reinvent Yourself”(自分を改革せよ)というキャッチが目に飛び込んでくる。
「『リインベンション』は会社のコアバリューの一つであり、 私自身の人生の課題でもある。人はどんどん自分を『改革』し、前進することができる」 と、矢野は力を込める。顧客が「リインベンション」できるようなサービスを、また、社員が現在の思考に満足することなく、常に自己改革できるような企業文化をつくることが、矢野の使命だ。
ツェンによれば、女性が、袖を通さなくなった服を前に罪悪感を感じることなく、自分自身や自分のスタイルの「進化」に合わせて、気軽に楽しくクローゼットも進化させることができるようなイノベーションをファッションの再販市場に起こしたかったという。 そして、生まれたのが、「誰も損をせず、みんなに価値をもたらし、好循環を生み出す『ショッピング通貨』サービス」(ツェン)だ。