私は最新刊『夢をかなえる集中講義』のなかで、世界8億人に清潔で安全な飲料水を届けることを目標にNPO「チャリティー・ウォーター」を立ち上げたスコット・ハリスンの物語を書きました。ナイトクラブのプロモーターとして客を集めては泥酔させる生活をしてきたスコットが「自分が知っている人間の中でいちばん惨めで最低な人間だ」と自覚し、すべてを変えたいと動き続け、情熱を注げることを見つけたという話です。ここで伝えたかったのは、「情熱の見つけ方」です。
自分の生き方に嫌気がさしたスコットはまず、困った人を助けたいと、慈善団体でボランティアしたいといくつもの団体に頼みました。ただ、およそ人のために汗を流せる人間に見えなかったため、断られ続けます。そんななか、唯一受け入れられたのが、最貧国に赴き無料で医療サービスを行うNPO「マーサー・シップ」。 旅費を本人が負担すれば、という条件でしたが、スコットはこの機会に飛びつきました。
彼は西アフリカのリベリアに行き、医療サービスを受けた患者の話をまとめる仕事を任され、ひどい疾患に苦しむ人たちに数多く出会いました。彼は、苦しむ人たちの多くがバクテリアや寄生虫、下水などで汚染された飲料水が原因だということに気がつきます。
「自分ができることは何だろう」ー。アメリカに戻り、考え抜いたスコットが出した結論が冒頭のNPOの設立です。スコットのミッションは「清潔で安全な水を多くの人に届ける」。それからは、クラブのプロモーターとして身につけたスキルを活かして、世界中の人々から支援を得るべくかけずり回り、情熱を持って語り続け、有名企業の幹部からの支援の約束を取り付け、さらに支援の輪を広げてくれました。
なぜ、私がこの話を引用したのでしょうか。それは、大切な教訓があるからです。
その答えは、情熱は後からついてくるものであり、やってみるのが先だということ。 情熱を傾けられるものを見つけようと、内へ内へとこもる人たちがよくいますが、彼らは「行動してはじめて情熱が生まれるのであり、情熱があるから行動するわけではない」ということを見落としてしまっています。
実際に経験し、想像力が刺激されることで、自分はこうしたい、こうありたいといった最高のビジョンを描くことが できるようになる。スコットも、慈善団体でのボランティアが使命だと思えたわけですが、そこに至までの予備知識はゼロ。ただ、それは誰しも同じではないでしょうか。
とはいえ、「情熱だけでは足りない」。これも私の意見です。もちろん、私は情熱が大好きですし、自分を突き動かすものを知ることは大事だと思いますが、情熱は出発点にすぎません。
私が提唱しているのは、「情熱とスキルと市場が重なり合うところ」。あたなにとってのスウィート・スポットを見つけることの必要性です。なぜなら、私がいま振り返り、キャリアを築く上でもっと早くに知っておきたかったことは、「仕事だとは思わずに取り組める役割を、社会のなかに見つけること」の大切さだったからです。情熱とスキルと市場が重なる場所を見極められたとき、その役割は見つかります。
それは、やりがいがあるというだけではなく、情熱を傾け、人生を豊かにしてくれます。ぴったりとはまる役割を見つけるのは、簡単ではありません。ある程度時間がかかるでしょう。あなたは、実験を繰り返し、多くの選択肢を試し、常識を検証し、正しくないと思えば突っぱねることが必要です。
最後に一言。これまでも言い続けてきましたが、行く先が見えなくても心配しないでください。目を細めても視界がはっきりするわけではありません。最終目的地に急がないでください。なぜなら、寄り道や思いがけない回り道に、とびきり面白い人や場所、チャンスに巡り合えるのですから。
わたしの助言もそうですが、あれこれアドバイスされても、うんざりしないでください。あなたにとって何が正しいかは、あなた自身が見極めるのですから。
ティナ・シーリグ◎スタンフォード大学工学部教授およびスタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)のエグゼクティブ・デ ィレクター。著書『20歳のときに知っておきたかったこと』『未来を発明するためにいまできること』など。近著『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』。
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