モデレーターのウォルト・モスバーグからAI技術が今後どこに向かっていくのか、そしてそれは何を意味するのかと問われたベゾスは、我々は「(AIの)黄金時代に差しかかっている」可能性があると踏み込んだ発言を行った。
AIと顧客の需要
アマゾンでは、AIの開発に1,000人を充てているとされている。その一部は同社の人工知能スピーカー、エコー(Echo)に携わっていると推定される。エコーは、米国で60年代に放送されていたSFドラマ『宇宙家族ロビンソン』で有名になったロボットのアルファ版のようなもの。ユーザーの声に耳を傾け、音声で答えを返してくれる。照明を消したり、交通状況について報告したり、ものを注文したり(もちろんアマゾンで)する。レビューでの評判は良く、アマゾンによれば売れ行きもいい。
エコーの機能が音声認識と家電の遠隔操作だけならば、単に人目をひく商品か、せいぜい便利な設備にすぎない。だが人工知能が搭載されたことで、エコーはそれよりも遥かに大きな意味を持つものになり得る。
ベゾスはAIについて、3つの技術基盤がそれを可能にしていると語った。それがアルゴリズム、(コンピューターの)計算能力、訓練データだ。この3つ目の訓練データこそが、需要に関するデータの世界市場を独占するというアマゾンの恒久的な戦略にとって最も重要な部分だ。
需要は感知するだけでなく理解せよ
アマゾンの創業初期は、ウォルマートやテスコ、ベストバイなどの大手小売業者が“全能”な存在と見られていた。消費者の需要をしっかりと把握していたからだ。長年にわたって、電子商取引は本や電化製品には向いている“脇役”として片づけられてきたが、それももう昔の話だ。
成功の方程式に必要なのは、小売業が常に人々に提供してきたのとほとんど変わらない、利便性と選択、そして価格だ。アマゾンはもちろん、これらを買い物客の自宅にもたらすという見事なサプライチェーンを築いた。
しかし成功の真の秘訣は、商品レベルの需要とライフスタイルレベルのニーズを“つなぐ”能力にある。アマゾンは個々の消費者を認識し、ほかに何を買うべきか、いつプライム会員になるべきかなどの提案を行う。そして消費者にとっては、どれも理に適った提案に思える。