五感に訴えるプレゼンテーション、ビル・ゲイツ流「人の心を動かす方法」

ビル・ゲイツ(Photo by Ida Mae Astute/ABC via Getty Images)

ビル・ゲイツは以前、発展途上国でマラリアの感染がどのように拡大するかを説明するため、観客席に向かって蚊を放ったことがある。清潔な飲料水が入手できない場所で汚水を浄化するプロセスを紹介するために、テレビ番組で浄化した汚水を飲んで見せたこともある。

そのゲイツが今度は、サハラ以南アフリカの貧困撲滅に向けた解決策への関心を高めるため、ニューヨークのワン・ワールド・トレード・センター68階に鶏舎をつくった。ニワトリの前で貧困問題に関する新たな取り組みを発表することで、プレゼンテーションを立体的かつ人の五感に訴える経験にしたのだ。

パワーポイントを使って、事実や数字を見せるだけのプレゼンテーションにすることもできた。だが、ゲイツは報道機関やブロガーたちに、共有や議論ができる、写真に撮ることができる、そして楽しむこともできる情報提供を行った。退屈なプレゼンテーションは聴衆の思考にも心にも訴えないことを、よく知っているのだ。そして、極度の貧困に関連した問題の解決に心から情熱を傾けているゲイツは、この問題について訴える機会があれば、それを無駄にはしたくない。

そしてゲイツは同時に、データも提供した──「私たちの目標は西アフリカ各国で、ニワトリを飼育する世帯の割合を現在の5%から30%程度にまで引き上げることだ」

「なぜニワトリかといえば、極度の貧困の中で生活するおよそ10億人の人たちにとって、コストがかからず、容易に始められるニワトリの飼育は、適切な投資だと考えられるからだ。子供たちの健康に害を及ぼすこともない」

「家畜の飼育は人々を貧困から抜け出させるための素晴らしい方法だ」

コミュニケーションにおけるゲイツの戦術は、聴衆が他の人たちと共有したいと思うようなコンテンツをつくり、深刻な問題に関する真剣な議論のきっかけを提供し、聴衆の注目を集めようとするものだ。

説得力のあるコンテンツは「興味深く、楽しく、ためになる」ものであることをゲイツは理解している。だからこそ、ステージの上で瓶に入っていた蚊を客席に放ち、汚水を飲み、プレゼンテーションをしている足元にニワトリを歩き回らせるのだ。
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編集=木内涼子

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