ところが子どもたちは退屈し、木にぶつけてばかりで、気づけばアンダーソンはひとりで遊ぶはめに。すると、閃いたのだ。「ロボットに飛行機を飛ばさせたほうが、より精密に高く飛べるはず。それに、そのほうがクールじゃないか?」
“空飛ぶロボット”でネット検索すると、「ドローン(無人航空機)」というカテゴリーが。そこで早速、「DIYドローン」という名のウェブサイトを立ち上げた。
それから9年-。アンダーソンは現在、北米最大のドローン製造企業「3Dロボティクス」のCEOを務めている。
「たまたま、面白いハードウェア企業が生まれていたときに居合わせただけ」と、アンダーソンは語る。確かに、当時はiPhoneが世に出たころで、スマートフォンにも使われているMEMSセンサーや加速度計が注目を集め始めていた。
しかし、彼があの週末に考えた「ロボット×ラジコン」のような“組み合わせ”がドローンを進化させてきたのも事実だ。例えば、カメラ×ドローンからは「ドローニー(ドローン撮り)」という、ドローンを使った自撮りが生まれている。カメラ搭載型ドローンは、コンシューマー市場では普及しているものの、ビジネスではまだ大幅に成長の余地がある。特に、有望なマーケットが農業と建設業だとアンダーソンは指摘する。
「農業は世界最大の産業で、デジタル化によって進化の余地があります。従来は作物を管理する効率的な方法がありませんでしたが、ドローンで空撮することにより、“作物マッピング”も可能です。一方の建設業も、同じように計測が難しい産業でした。設計は3D CADファイルを使うなどデジタルから始まりますが、建設に移ると途端にアナログになってしまう。なので今では土木の段階から撮影し、マッピングする。そのデータを設計用CADと照合すれば、日々の進捗管理もできるわけです」
アメリカでは、農薬散布にドローンを使う農家も増えている。また、アマゾンやUPSをはじめとした物流企業が商品配達の実験を開始。日本でもMIKAWAYA21がドローン宅配サービス実験を行っている。そのほか、信号機や標識……。これからは、複数の役割を担うドローンが現れると考えるのが自然だろう。
ドローンの進化を促す“視点”
だが、アンダーソンは「ドローンの最終形はまだ見えない」と、さらなる進化を予想する。
「今までは、ドローンがある程度の形に落ち着くまでの進化の過程とも言えました。まずは価格が下がり、次に使いやすくなりました。そして、今は各社が競ってサイズと重量を手ごろなものにしようとしています。そのときに初めて、『そもそも、ドローンとは何なのか?』という問いが生まれるのです。ドローンとは、単に空飛ぶカメラなのか、センサーなのか、あるいは配達機器なのか?『ビッグデータや映画、ロボット、航空宇宙といった産業で何ができるか』を考えられるようになります」
多くの産業がデジタル化の過渡期とあって、しばらくはドローンも“橋渡し役”をすることになるだろう。だが、ひとつだけ未開拓の空間がある。“空”だ。
「世界はこうもゴチャゴチャしているのに、空を見上げてみれば飛行機ひとつ視界に入ってきません。今日のドローンは皿くらいの大きさですが、明日には手のひらに収まるはず。それこそ鳥や虫の大きさになれば、新しい次元で世界を探索できるようになります。空を見上げたり、鳥瞰したりするのが自然な行為になれば、新しい考えも生まれることでしょう」
人の発想が重力から解き放たれたとき、ドローンのさらなる進化が始まる。
クリス・アンダーソン◎3Dロボティクス共同創業者兼CEO。カリフォルニア大学バークレー校で量子力学と科学ジャーナリズムを学んだ後、科学専門誌「ネイチャー」や「サイエンス」、英「エコノミスト」誌勤務を経て、2001〜13年まで米IT誌「ワイアード」の編集長を務めた。著書に『[メイカーズ]21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)など。