バドワイザーの大胆戦略、期間限定でブランド名を「アメリカ」に

Photo: Anheuser-Busch

2016年に入ってまだ5か月だが、早くも今年最悪のマーケティング案が決定した。

大手ビールブランドのバドワイザーが、今年の夏、ブランドの名称を「アメリカ」に変更すると発表したのだ(11月までの期間限定)。

それだけではない。ブランド名の下に載る「ビールの王様」という同ブランドのモットーも、アメリカ合衆国の国章に記されている「エ・プルリブス・ウヌム(多数から一つへ、を意味するラテン語で他州から成る統一国家である米国を表す)」に変更される。

またビールの缶の下部には、「アメリカ杉の森からメキシコ湾流まで/ここはあなたと私の国」という詩(フォーク歌手ウディ・ガスリーの『わが祖国』の一節)が記される。瓶ビールの方も同様にブランド名が変更され、ラベル最上部にはアメリカ国家『星条旗』の最初の一節が記される。

18世紀のイギリスの詩人サミュエル・ジョンソンは「愛国心とは、ならず者の最後の逃げ場である」と語ったが、今回の場合は、業績が急降下しているブランドの最後の逃げ場だと言える。

米国で120年の歴史を持つバドワイザーは、一度は世界で最も売れているビールの座を手にしたものの、1989年以降は売上が減少に転じている。2008年には、製造元のアンハイザー・ブッシュがベルギーのインベブに買収された。同社の最高幹部はブラジル人であるから、今回の発作的な愛国主義も、その生みの親は外国人という訳だ。

バドワイザーの凋落には、いくつかのトレンドが影響している。まず、より健康的で「飲みごたえがより薄い」と認識されている「ライト」なビールの台頭。そして最近で言えば、クラフトビールの台頭だ。

ミレニアル世代でビールを飲む人の半数以上が、バドワイザーを一度も飲んだことがない。米国人が、ビールの代わりにワインや蒸留酒を飲むようになっていることもある。アンハイザー・ブッシュとしては、とにかく話題づくりをして、バドワイザーに興味を持ってもらいたいのだ。
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編集=森 美歩

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