—なぜベンチャーフィランソロピーに注目されているのですか。
ウィリアム・カー教授(以下、カー):世界をより良くするために、誰もがベンチャーフィランソロピーに関心を持つべきだからだ。富裕層による寄付は昔からあるが、起業教育の進化とともに、フィランソロピーのアプローチ方法も変わってきた。
不確実性が増すなか、世界に変革をもたらすべく新しい組織を立ち上げても、うまくいくかどうかはわからない。そこで、巨費を投ずる前に複数の方法を試し、成功しそうなアイデアへの投資を拡大していく。そんなベンチャーキャピタルの投資スタイルをフィランソロピーに応用したものが「ベンチャーフィランソロピー」だ。歴史の長いNPOでも、こうしたやり方が実践されている。
—ベンチャーフィランソロピーのどのようなことを特に研究しているのですか。
カー:ハーバード大学ビジネススクールではベンチャーフィランソロピーを企業や組織のケーススタディーから学ぶ。たとえば、ビリオネアのグルラジ・デシュパンデが率いる起業促進団体、メリマックバレー・サンドボックスの事例だ(編集部注:2014年、アントレプレナーシップ・フォー・オールと改名)。
同氏はボストン近郊に住みながら、母国であるインドでさまざまなアイデアを試す一方で、アイデアを持った人材の発掘にも努めている。インドをより良い社会にするためだ。運営方法はスタートアップと同じだが、実際には社会事業だ。
また、私がかかわっているカウフマン財団は、起業家育成と米国中南部のカンザス市周辺の高校教育改革を目指しているが、米国にはこうしたフィランソロピー団体が数多くある。大手では、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のほかにクリントン財団もある。財団化せずに個人で寄付活動を行うことが多い富裕層たちも含めれば、フィランソロピーに携わる個人や団体の正確な数は把握できないほどだ。
—日本と違い、米国のリーダーや企業経営者はフィランソロピーに熱心ですね。
カー:米国には、市民が積極的に社会参加し、富を還元するという伝統がある。高名な企業幹部や指導者が社会にお返しをするという一般認識が根付いているのだ。
一方、カーネギー財団など、昔からフィランソロピーは存在していたが、当時と違うのは、富の蓄積の速度が増し、蓄積のされ方も変わっている点だ。フェイスブックのザッカーバーグCEOのように、高度な新しいアイデアを生み出すことで、若くして巨万の富を築く人も出てきた。こうしたベンチャー流アプローチが今や、社会事業でも用いられている。