Q:リーダーが哲学的思考をもつことに、どんなメリットがあると考えますか。欧米のビジネススクールでは「思考について思考する」という授業もあるようです。
西條:科学は基本的に特定の前提の上に知見を積み上げていくため、その前提が古くなるとすべてオワコンになるわけですが、哲学はその「前提自体を問い直す」ことができます。言葉の意味を根本から問い直す。物事の本質のとらえ方がわかれば、行動も変わってくる。「本質行動学」と呼ばれる所以(ゆえん)です。
先の挨拶の例で言えば、「承認と肯定のサインである」と挨拶の本質が理解できれば、とにかく大声で挨拶すればよいとはなりませんよね。相手が「承認された、肯定された」と感じなければそれは挨拶をしたことにならないからです。
実際に、星野リゾートの星野佳路社長は「人はなぜ観光をするのか」「観光とは何か」と、「観光」の本質を突き詰めたうえで戦略を立てられています。「旅行先での異文化体験であり、非日常体験である」という本質を導き出した結果、「地域らしさを意識的に取り入れた異文化体験を感じてもらえなければ観光には来てもらえない」ということを社員たちが洞察できるようになり、傾いていた経営を次々と回復させているのです。
Q:そのような哲学の講義は、ビジネスにおいて具体的にどんな作用をもたらしてくれると考えますか。
西條:社会の変化は、どんどん早くなっています。先ほどの科学の限界の話も関係してくるのですが、社会が変わっていくなかでは、「変わらないもの」が大切になってくる。いつでも使える普遍的な考えを軸に、変化するものを洞察できるようになるんです。日本のMBAではこの「実学としての哲学の有用性」を認識できている人はほとんどいませんが、海外を追認してこれから増えていくでしょう。
Q:ご著書『チームの力』のなかでは、リーダーシップは組織行動で最もよく研究されてきたにもかかわらず、あまり進んでいない分野であることがよくわかる、と書かれていました。その理由を教えて頂けますか。
西條:理由は、リーダーシップというものが統計に偏重した従来の科学的アプローチにマッチしないところにあります。基本的に、科学というのは、個人差を誤差として切り捨てて「誰にでも当てはまるリーダーシップ論」というのをつくろうと考える。
ところが、リーダーシップは思いきり「人」に依存しています。同じ台詞でも誰が言うかによって、まったく意味が変わってくる。尊敬している上司から「頑張っているね」と声をかけられたらモチベーションが上がるでしょうけど、ダメ上司から言われたら「いや、おまえが頑張れよ」と思うだけですよね(笑)。科学的アプローチでは、ここを落としてしまっている。だから遅々として発展しない。
リーダーシップとは目的を実現するための手段のひとつである以上、やはり状況と目的によって変わります。さらに状況の真ん中にはリーダーシップを発揮する「自分」がいて、向き不向き、合う合わないがあるわけです。どこかの本に書いてあるものをそのまま使ってもダメな理由はここにあります。自分の本質(特性)を深く理解したうえで、自分なりのリーダーシップをカスタマイズしていく必要があるんですね。