金融戦国時代に先手を取るSJIのフィンテック戦略

八木隆二会長(左)と牛雨社長が見据えるのはフィンテック革命後の大変革時代。2016年をそのための知見を蓄えるフェーズと捉え、競争優位を築くため先手先手の対策を打つ。 写真=若原瑞昌

グローバル規模で急拡大を続けるFintech(フィンテック)は、IT革命に匹敵する大変革を世界に起こすとされる。先行者が圧倒的優位を得たITビジネスにならい金融システムサービスで先手を取る決意をした企業がSJIだ。

世界規模でのフィンテック分野への総投資額はこの数年で急拡大した。アクセンチュアが発表したレポート「フィンテックと銀行の将来像」によると、2013年に約40億ドル(約0.5兆円)だった投資額が、14年には3倍の約120億ドルとなり、この勢いはとどまるところを知らない。まだ総投資額こそ少ないが、それは日本でも同様だ。同じ期間に2,640万ドルから5,440万ドルへと、2倍以上に伸びているのだ。

この世界的潮流を敏感に察知し、いち早くフィンテックを取り入れているのが、金融機関向けのシステム開発で40余年の実績を持つSJIだ。代表取締役会長CEOの八木隆二は、自信にあふれた表情で言う。

「お客様にベストなサービスを提供するためには、金融領域で近年急拡大しているフィンテックで後れを取ってはならない。最重要の戦略的注力領域として積極的に取り入れていきます」

八木の言葉を裏付けるように、同社では年初から矢継ぎ早にフィンテック分野への新たな取り組みを開始している。1月12日には、ブロックチェーン技術に強みを持つテックビューロとの協業開始を発表。

「40年余りの金融機関向けのシステム開発を通じてシステムインフラに精通している当社とテックビューロの協業によって、大きなシナジー効果が発揮できるはずです。ブロックチェーンという先端技術を取り込み、新たな金融サービスの創造に結びつける端緒としたい。そして、それによって当社の競争力を高めていく」(八木)

八木によると、協業への交渉を始めてから連日のように協議を重ね、わずか1か月で合意に至るスピード交渉だった。

次いで2月1日には、アルゴリズムトレード分野での知見を有し、同社の親会社でもあるフィスコと連携し、AI(人工知能)株価自動予測システムの開発を開始することを発表した。SJIとしては、これを機にAIへの知見をいち早く社内に蓄積していくのが狙いだという。

社内体制もフィンテックへの注力にあわせて強化した。2月1日付でフィンテック戦略室を設置し、8日には同部署の顧問として金融リスク管理と経営工学の専門家である立命館アジア太平洋大学の大竹敏次教授を招聘、同部署内に先端技術研究所を設置することも発表した。これら一気呵成に発表された取り組みから伝わってくるのは、同社のフィンテック分野への並々ならぬ意気込みだ。

「この10年のITの進化は、世の中に大きな変化をもたらしました。大容量化とモバイル化が急速に進み、それによって消費産業の市場は大変革した。次の10年は金融サービス分野で、フィンテックによる大変革が必ず起こると我々は認識しています。この大変革の中を勝ち抜くためには、ライバルの先をいくスピード感が何よりも大切で、当社では特に、ブロックチェーンとAIに注力して、どこよりも早く革新的なサービスを提供していきたい」(八木)

ブロックチェーンとは、ビットコインによって発明された端末間のP2P(ピア・トゥ・ピア)方式によるデータ処理の基盤技術で、複数のコンピュータが分散型合意によって暗号署名しながらブロック単位で複数データを処理する。低コスト性、ゼロダウンタイム、高いセキュリティ性を実現するなどのメリットを持ち、金融インフラを刷新するとされている。

「例えば、米国アトランタ州のスタートアップ企業『カベージ』はAIで自動与信判定することで融資までの時間を圧倒的に短縮するという画期的なオンライン融資事業をスタートさせました。日本でもこの分野の規制緩和が進められており、10年後にはこの分野でも完全競争社会が実現するでしょう。将来の金融システムインフラがどのような姿になるとしても、当社としてはベストなサービスを実現するために、今からその動向を察知して、準備しておきたいのです。先手必勝です」(八木)
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文=鈴木裕也

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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