彼は自らの不満を解決するため、スタートアップSilk Labsを立ち上げ、IoTデバイスにより適したオペレーティングシステムの構築に取り組んでいる。シードラウンドで250万ドル(約2億8,000万円)を調達したSilkは2月16日、初めての商品となるWiFi接続型セキュリティカメラ「Sense」をクラウドファンディングサイトKickstarterで発表した。Senseの販売価格は250ドル(2万8,000円)で、今年暮れごろの出荷を予定している。
カメラ向けに改作されたクアルコムのSnapdragonモバイルチップセットを搭載したSenseは他のセキュリティカメラと違い、録画ビデオを常時クラウドに送ることはしない。人やペットのような特定の物体を識別したうえで、例えば知らない人物を検知すると、デバイスはユーザーに知らせ、クラウドにビデオを送り始める。
既存のセキュリティカメラの大半は、デバイスそのものの処理能力は小さく、情報処理の大半はクラウドで行われる。膨大な録画ビデオは企業のクラウドサービスに送られるため、ハッカーに攻撃されるリスクをはらむ。“見かけだけのセキュリティ”と言われるのはそのためだ。また、家庭の内側の光景が企業のリモートサーバーに送られ続けるのは、ユーザーにとって気持ちのいいものではないだろう。
Silkが提供しようとするもう一つの画期的なサービスは、端末をつなぐ暗号化技術だ。デバイスからクラウドに送られたビデオには、ユーザーのスマートフォンでしかアクセスできず、会社はデータの閲覧すらできないという。グーグル傘下のNestのホームセキュリティカメラでは、会社がスマートフォンから企業のサーバーに送られたデータ全てを閲覧できるのとは対照的だ。
SilkはSenseと他のデバイスやサービスをつなぐためのソフトウエア開発にも乗り出し、デバイスを活用したユニークなアイデアも募っている。SilkはSenseのようなハードウエアの構築を目指しているわけではなく、ハードウエアメーカーにSilkのシステムに対応したデバイスの開発を任せたいと考えているが、ガルはMozillaでの経験を通じ、ハードウエアメーカーに新たなプラットフォームを導入させる難しさを熟知している。
グーグルのアンドロイドとアップルのiOSへの対抗をもくろんだ第三のモバイルプラットフォームFirefox OSは、スマートフォン市場で大きな成果を出せず淘汰された。
Firefox OSに携わった仲間を連れて昨年6月にMozillaを去ったガルは、新たな挑戦について、「IoTデバイスメーカーは自身のソフトウエアを持っているが、ソフトウエアのことはソフトウエアの専門家がやった方がいい。我々はその役割を担いたい」と語った。