同社のR&Dの最高責任者、デービッド・ブランチャードによると、ダヴは特許に基づいたイノベーションによって、1957年に誕生した。「他者の石鹸は汚れと同時にタンパク質と脂を取り除くが、当社の技術によって開発したDEFI(低刺激性洗浄成分)はPHが中性で、肌の水分維持を助けることができる」という。
ユニリーバが自社製品を将来のイノベーションのためのテクノロジー・プラットフォーム、そして他社ブランドとの差別化の源泉としてこられたのは、自社の異なる製品カテゴリーに用いられたテクノロジーに関連する科学と、消費者に関する深い洞察力のおかげだ。
ダヴのこうしたプラットフォームが確立したのは、1990年代だった。汚れを肌や食器、布地などから分離させる化合物の界面活性剤を採用したボディウォッシュが大流行し、競合他社が次々に類似の製品を発売。ユニリーバは肌にやさしい技術によるダヴのボディウォッシュ開発を試みたが、消費者が好む泡立ちの良い製品はつくり出すことができなかった。
ブランチャードは、「泡立ちを良くするためにまず、(成分の)配合を変えたが、性能が落ちてしまった」「そこで、我が社が持つテクノロジーのポートフォリオを見直してみたところ、洗顔料に使用していたグリシン酸塩が水分を保持する性質を持ち、泡立ちも非常に良いことが分かった」と説明した。
同社の制汗剤の新製品も、これと同様の形で開発された。「スキンケア製品の開発で特許を取得していた分子技術が、保湿効果をもたらすと同時に脇の下の黒ずみ(炎症による色素沈着)を解消する効果を持つことが分かった」「機能性に関する消費者のニーズに応じると同時に、当社独自の提案を付け加えることができた」という。
ユニリーバは世界各国で2万件を超える特許を取得。製品ごとに知的所有権を取得しており、特許の有効期間が経過した後も、シェアなど市場における優位を維持することができる。
さらに、技術に対する同社のアプローチを示すもう一つの例が香料だ。香りは大半の製品において、消費者の好き嫌いを左右する。
ブランチャードによると、同社は当初、発汗に伴って香りが放出するカプセル化技術を開発、制汗剤に採用した。その第2世代が動き(摩擦)に伴って香りが放出するもので、ボディウォッシュやスキンケア、シャンプーなどに採用した。そして、これら2世代の技術が新たに生み出したのが、「レクソーナ」(Rexona)ブランドの制汗剤だ。
こうしたテクノロジー・プラットフォームの構築は、同社の各ブランドによる消費者利益の理解から始まる。次に、1年半~2年で実現可能なR&Dの行程表が作成される。同社には、2~5年の時間枠でさまざまなアイデアについて研究を行うチームがあるほか、持続可能性に関する世界的な目標に対応したイノベーションを継続するための製品設計を担う製品カテゴリー別のチームもある。また、戦略的な科学研究を行うグループも設置されている。
ユニリーバが目指すのは、環境への影響を半減させると同時に事業を2倍に拡大することだ。ブランチャードは、「テクノロジー企業と同様に、当社のブランドは消費者のニーズから生まれるものであり、そのニーズに応じるための科学的な知識に基づくものだ」と話している。