中央教育審議会が掲げた「現在の教育に関する主な課題」を引き合いに出すまでもない。誰もが学校教育は曲がり角にきていると感じているはずだ。現在、「これからの日本の教育改革を担うキーパーソン」と言われる兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授の日渡円(ひわたしまどか)は、日本の教育は「第3の変革期」を迎えていると言う。
「第1が明治維新後の義務教育の制度化、第2が終戦後の民主主義に基づく教育、そして第3が現在。急激なグローバル化と情報化により社会は大きく変化しているのに、現行の教育システムはこれらにまったく対応できていない」
これからの日本を支えるのは高度成長期の企業に求められた「指示を実行する知識型の人間」ではなく、優れたベンチャー起業家のような「課題を発見して解決する能力を持つ人間」である。だがそうした人材を育てるカリキュラムは現行の学校には存在しない。変革にはまず教員の意識改革が必要だが、全国100万人もの教員の意識を一度に変えるのは非常に難しい。
「それならば教員の管理職である全国1,700人の教育長の意識を変革すればいい」。そう考えた日渡が中心となって、2016年度から兵庫教育大学の教職大学院の「教育政策リーダーコース」がスタートする。これは全国の教育長や将来の教育行政のリーダーを受講対象とした日本初の大学院で、教育行政や教育経営を専門とする専任教授陣が、院生に都合のいい時間と場所に足を運びマンツーマンでケーススタディ型の授業を行う。
最終的な目標は、国境や市町村の枠組みといった「境界線」にしばられない人材の育成。
「金銭的な価値観が優先され、東京に一極集中が進む社会を変えるためにも、それぞれの地域で活躍できる人を生み出したい」
日渡 円◎1956年生まれ。宮崎市立学校、宮崎県教育委員会、五ヶ瀬町教育長などを経て、兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授。(photograph by Ikuya Honda)