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2015.10.08 07:30

現役文部官僚だから言える「子どもが伸びる大学選び」

shock / Bigstock

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文部科学省の現役課長である合田哲雄は、学術研究助成課長だった昨年、フォーブスジャパン10月号58~61ページで紹介した科研費採択数ランキングを作成した。大学選びの既存のモノサシを壊すこのランキングは、大学や受験生に何を問うのか。

大学のリアルな姿が見えてきた。例えば、競争的研究費「科研費」の300を超える分野ごとの過去5年間にわたる採択数上位10校のリスト(文科省HPで公表)は研究面での「大学の実力」を如実に示している。

理工学系分野は京都大学、東京大学、東北大学、大阪大学などが比較的強いが、生物系は慶應義塾大学、北里大学、聖路加国際大学、昭和大学など私立大学のプレゼンスも大きい。人文学・社会科学系は北海道大学、東京芸術大学などに数多くの強みがある一方で、早稲田大学、立命館大学(人文地理学、経営学、社会学で1位!)、日本福祉大学といった私立大学も大きな存在感を示している。

地方創生の核となる地方大学にも「宝の山」が多く存在する。例えば、信州大学(高分子・繊維材料)、長崎大学(寄生虫学、感染症内科学)、新潟大学(歯周治療系歯学)、山形大学(デバイス関連化学)、岡山大学(情報セキュリティ)、宇都宮大学(感性情報学)、琉球大学(自然人類学)など枚挙に暇がない。

プロのエンジニアを確実に育てる金沢工業大学やクロマグロ養殖やバイオコークスの研究が盛んな近畿大学は科研費採択件数においても着実に伸びている。これらのエッジは、上田蚕糸専門学校(信州大学)、東亜風土病研究所(長崎大学)など戦前からの蓄積や新潟大学歯学部の前田健康学部長、金沢工業大学の黒田壽二学園長といったリーダーによって支えられている。もちろん、名古屋大学のアジア法整備支援の中でミャンマーの法改革を支えている牧野絵美講師といった若い力が原動力だ。

戦後の教育は「ふるいわけ」だった

これらのリアルな情報はいまなぜ重要か?かつて文部省が「教育は投資だ」と言い切ったことがあった。

昭和37年(1962年)の教育白書『日本の成長と教育』の「教育は、(中略)技術革新の成果を生産過程の中におりこんで軌道にのせてゆくための、欠くべからざる要素である。このような時代にあっては教育を投資とみる視点がいっそう重視されなければならない」という記述は、工業化社会における人的資本論そのもの。

もちろん、教育は人格の完成が目的であって、経済に奉仕するものではないといった反論が澎湃として起きた。そんな背景が、我が国の教育について、「人格の完成」という理想を掲げつつも、実際には大学の難易度による序列が産業社会のピラミッド構造に効率よく人材をスクリーニング(ふるいわけ)する手段として機能してきたと、研究者の指摘にはある。

その中で重視されたのは、入試を乗り越えた基礎学力と大学生活で培われた社会性、特に、忍耐強さ、あらかじめ定められた計画を着実にこなす正確さ。理工系などを除けば、大学教育で大事なのはスクーリング(教育)ではなくスクリーニング(入試)で、大学教育の中身自体はあまり重要でなかったと言えよう。

学力は大学で伸びているのか?

それから半世紀経ったいま、経済産業省の「我が国企業の国際競争ポジションの定量的調査」の通り、成熟社会・知識社会である我が国の産業構造は短い期間で大きく塗り替わる。

「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り上げることである」(アラン・ケイ)という名言がある。「未来を創り上げる」ために必要なのは、文章や相手の話をしっかりと理解し、自らの意見を論理的に構成した上で表現し、他者との熟議を重ね、解を見出す思考力。その育成に各国がしのぎを削る中、15歳の子供達の思考力を測るOECDのPISA2012において我が国は加盟国中トップになるなど義務教育のパフォーマンスは高い。

しかし、この子供たちが高校・大学と学び続ける中で知的に伸びているだろうか? 残念ながら学習時間だけを見てもこの問いを肯定することはできない。現在、文部科学省挙げて「高校教育の質保障・大学入試の改善・大学教育の質的転換」の三位一体改革を強力に進めている所以である。

この改革の肝が「高等学校基礎学力テスト(仮称)」や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入だが、これにより大学入学時の学生の能力の「初期値」が明確になる。学生の能力を大学が4~6年かけてどこまで伸ばしたかの可視化もこれから進むだろう。その「伸び」に投資するのがまさに大学教育。だからこそ今、大学教育のリアルな姿を知ることが進路選択の上で必須になっている。

どの大学が学生を伸ばしているか、教授の個人芸にとどまらず、組織として横串の通ったカリキュラムを提供している大学はどこか、どの大学に研究上のエッジがあるのか、これらの特長を引き出すべく逃げずにマネジメントに取り組むための緊張感あるガバナンスが確立している大学はどこか―。

科研費採択件数だけでなく、新たなモノサシとなる豊富なデータや数字がもっと必要となるだろう。そして、投資に当たって最後に大事なのは顔の見える相手を信頼できるかどうかではないだろうか。

つまり、投資としての大学教育について、偏差値だけで判断するのはもったいないし、危険ですらある。大学の中身を具体的に知り、「投資先」として吟味することが最も大事なことではなかろうか。

合田哲雄(文部科学省初等中等教育局教育課程課長) = 文

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