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2016.01.18

「投資家の背中を押す」インキュベイトファンドの投資支援の姿

写真左が赤浦徹、右が村田祐介 / photograph by Toru Hiraiwa

ベンチャー投資家と起業家は両輪の関係にあるといわれている。
その言葉を体現したのが、インキュベイトファンドの2人の投資支援の姿だ。

独立系、金融系、コーポレート系など、さまざまなベンチャー投資家がいるなかで、インキュベイトファンドは創業期の投資、育成の特化したベンチャーキャピタルだ。投資先の一社、大手ゲーム会社Aiming(エイミング)は、創業からわずか4年で、29億円の大型資金調達に成功し、2015年3月に新規株式公開(IPO)を果たした。

世間の注目を集めたこの大型上場の舞台裏で奔走したのが、彼らだった。
「どうして独立されないのですか?」

09年、インキュベイトファンド・赤浦徹ゼネラルパートナーは現Aiming CEOの椎葉忠志との初対面の場で、そう問いかけた。「ブラウザ三国志」や「戦国IXA」といった人気オンラインゲームタイトルを立ち上げてきた椎葉は、大型の成功事例を持つ経営者兼ゲームクリエイターとして、業界で知らぬ者のいない存在だった。業績も絶好調—。だが、椎葉は最終決定権者の創業オーナーではない。赤浦の素直な一言は椎葉の心の奥に残った。

転機となったのは11年3月。東日本大震災の動揺が残る中、再会の場で赤浦は再び誘いをかけた。
「今こそ勝負のとき。スマフォネイティブでオンラインゲームを! 一緒にやりましょう!」

赤浦と同・村田祐介ゼネラルパートナーは、椎葉と共に新会社を手掛けていく“覚悟”を伝えた。会社設立時に”異例”の3億円出資—。椎葉はその場で独立を決断した。この時、両者が合意したのはただ一点である。「ゲーム市場はこれからスマートフォンで盛り上がる」。当時活況だったガラケーやPCオンラインゲームから離れる戦略だ。
「設立時から仮説や戦略を熱量高く合意できれば、投資家と起業家は両輪となり、成長シナリオを一切ぶらさず突き進んでいけます」

そう語る村田が監査役、赤浦が取締役を担う形で同年5月に法人設立。Aimingの初オフィスが決まるまでの数週間、創業メンバーはインキュベイトファンドのオフィスへ連日詰めかけ、開発作業を進めた。PCを持ち込んだ十数名がごった返し、大きな熱量を生んでいたという。

一方、村田はAiming CFOの渡瀬浩行らと共に、社会保険等の手続きに忙殺されていた。従業員が急増し、膨大な事務作業が発生したためだ。椎葉が社長を前任していた企業の大半の社員がAimingに加わり、創業から3ヶ月で約100人まで増加、Aimingの名は瞬く間に広まっていた。

Aiming経営陣には元スクウェア代表取締役の武市智行も参画、その武市がキーマンとなり、Aiming急成長の陰の立役者といえる人物、ジャフコ現常務取締役の渋澤祥行が加わる。渋澤は会社設立からわずか3ヶ月のAimingに、10億円の出資を持ちかけた。Aimingはこの申し出を受け、同時にインキュベイトファンドも2億円の追加出資を行う。11年当時、10億円越えの資金調達は非常に珍しかったが、この巨額出資は双方に大きなプラスを生み出す。

Aimingにとって、ジャフコは会社の危機を救った存在となった。15億円の資金調達をしたものの、開発費や人件費がかさみ、12年のAimingは苦しい資金繰りに直面していた。しかし、インキュベイトファンドはこれ以上の追加出資に応じられなかった。当時のファンド規模が28億円であり、その中の5億円、つまり増資可能金額の2割強をすでにAiming一社に投じていたからだ。そんな窮地において、ジャフコが6億円の2度目の出資。翌年のニッセイ・キャピタルによる3億円出資へと繋げた。赤浦はこう述懐する。

「もしこの9億円がなかったら、倒産していたかもしれません。うまく乗り越えられたのは、投資家間の協力体制のおかげです」

さらに14年、YJキャピタルや銀行系ベンチャーキャピタル3社から総額4.5億円を調達。この資金を、のちに大ヒットとなる「剣と魔法のログレス」のプロモーションに集中投下できたことがAimingの成功を決定的なものにした。

同年末には中長期的事業戦略において重要な一手を打つ。中国巨大IT企業テンセントの資本参加だ。村田がテンセント上層部に直接売り込みにいき、並行してCFOの渡瀬とジャフコが連携して条件交渉し、最終的に関係者が一堂に会した場で本ディールをまとめた。テンセントにとっては、日本企業への初投資となる。

赤浦と村田が資本政策をリードしていくなか、上場へ至るまでの合計調達額は29億円に達した。15年3月、会社設立から46カ月目に株式公開を決めたAimingの資本構成は、昨今の新興企業のなかでも特にベンチャーキャピタル比率の高いものとなる。赤浦はAimingの成長物語を振り返るなかで、投資家側のシンジケーションの重
要性について強調する。

「起業家の背中を押す―。我々のような創業期の支援を行うベンチャーキャピタルの役割は一番最初のきっかけづくりですが、我々だけではどうにもなりません。なぜAimingが大成功したかといえば、適切なタイミングでベンチャー投資家が加わり、うまく連携できたからです。今後も投資家同士の信頼関係をさらに強固にして、“勝てる必然性”を上げていきたいですね」


赤浦徹◎日本合同ファイナンス(現ジャフコ)入社。1999年インキュベイトキャピタルパートナーズ設立。2006年に第2回IPA賞受賞(事業化支援部門)。10年インキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。

村田祐介◎1999年にエンタープライズソフトベンダーに創業参画。10年にインキュベイトファンド代表パートナーに就任。

土橋克寿 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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