その理由は、両国、とりわけアメリカでの中国に対する見解が、じつに多様だからである。アメリカでの中国に関する見解の一方の極は、「中国は、アジアそして最終的には世界における覇権国となり、何世紀にもわたる屈辱を克服し、世界における正当な地位を再び得ることを望んでいる」という見方である。その一例が、軍事専門家マイケル・ピルズベリー著『China 2049』(邦訳:日経BP社)だ。
かたや、「中国と積極的に関わることが、同国をより開放的に、政治・社会をいっそう民主化する」と考える人たちがいる。昨年、エコノミストのフレッド・バーグステンは、『Bridging the Pacifi c(太平洋をつなぐ)』を著し、「米中自由貿易協定を結べば、中国の開放を促進できる」と主張している。
13年には、投資ファンド運用会社ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマンCEOが、個人資産から1億ドル(約120億円)を寄付し、アメリカの若者の中国留学促進のために、3億ドル超の奨学基金を創設した。これは彼が、21世紀はアメリカと中国の「G-2」が圧倒的な影響力を持つと考えているからである。
近年のアメリカの中国に対する見方は、この両極端の見方の間を揺れ動いている。09年のオバマ政権発足時には、08年の金融危機からの回復とイランおよびアフガニスタンでの戦争からの撤退が優先課題であった。中国は、地球温暖化など数多くの世界的問題を解決するうえで、アメリカと協力関係を築くことが可能な新興勢力と見られていた。しかし、09年12月のコペンハーゲンでのCOP15で、中国がアメリカの期待通りには動かないことが明白になった。
12年に習国家主席が就任したとき、オバマ政権は、彼が国内的な権力基盤を確立後には、「大国関係」の責任を果たすはずだと一度は考えた。だが、13年6月のサニーランズにおけるオバマ大統領と習国家主席の首脳会談は、期待外れに終わった。その後の中国による、国内での政治的反体制派の投獄、国外でのサイバーセキュリティ問題の継続、13年11月の東シナ海のADIZ(防空識別圏)の設定、南シナ海や東シナ海での軍事的勢力の拡大などにより、中国がアメリカにとって最も重大な軍事的脅威であるとの見方が、ますます強まることになった。
過去には、このような安全保障上の懸念は、「アメリカの経済的利益にとり、中国は死活的に重要である」と主張するアメリカのビジネス界の人々の存在で、バランスがとれていた。ところが近年、こうした主張は弱まりつつある。それは、①中国経済の大幅な減速による輸出市場としての魅力の減少、②中国の労働コスト上昇による、製造拠点としての魅力の減退、③恣意的な規制の変更、知的財産権保護、サイバーセキュリティに関する問題の継続があるからだ。
ピュー研究所が行った世論調査によれば、09~12年の間は、中国に好意的なアメリカ人がそうでない人を上回っていた。しかし13年以降は、好意的でないアメリカ人の方が、好意的な人よりも多い。15年は好意的でない人が54%で、好意的な人々を34%も上回っている。
対照的に、日本については、好意的な見方が74%、好意的でない人は18%しかいなかった。アメリカ人が中国との問題として挙げたのは、中国によるアメリカ国債の大量保有、雇用が中国に奪われていること、中国からのサイバー攻撃、中国の人権問題、アメリカの対中貿易赤字、地球環境に中国の影響、拡大し続ける軍事力、中台間への緊張であった。
米中間の問題の多さとその深刻さゆえに、当面は緊張関係が続くだろう。同時に、中国が平和的で建設的な役割を果たすように促していく必要があることは多くの人が認めている。そのような役割を促進するためには、アメリカと日本の協力が不可欠である。
グレン・S・フクシマ◎米国先端政策研究所(CAP)の上席研究員。米国通商代表部の日本・中国担当代表補代理、エアバス・ジャパンの社長、在日米国商工会議所会頭等を経て現職。米日カウンシルや日米協会の理事を務めるなど、日米関係に精通する。