米国の大学の教科書販売のマーケットは10億ドル(約1,220億円)以上の規模だ。学生らは新学期が始まるたびに、何百ドルも支払って、数カ月経てば2度と開くことはないであろう教科書を購入しなくてはならないのだ。
なぜ大学の教科書はこれほど高額なのだろうか。簡単に言えば、高くても売れるからだ。
全米大学書店協会(NACS)が行った調査によれば、2014年秋に大学生が購入した教科書の数は平均5.3冊で、それに支払った金額は平均313ドル(約3万8,000円)だった。また、学生は1コースあたり平均71.23ドル(約8,700円)支払ったと報告している。
学生は何万ドルも授業料を支払った上、さらに教科書代を支払わなければならない。しかし、教科書出版業界はまさに変革の時を迎えている。ここで話題にしたいのは、スキャンして電子化した教科書のことに限らない。最初から電子版で発行されたインタラクティブな教科書が今後のトレンドになる、と業界関係者は主張している。
「従来の紙の教科書は、間もなく過去の物となるでしょう」と、アメリカ出版社協会(AAP)のDavid Andersonは言う。
「高等教育の分野にたずさわるAAP加盟企業の多くが、教科書のデジタル化が進むと見ています。彼らは出版社ではなく、電子化した教材を扱うデジタル・ラーニング・カンパニーなのです」
「書店は、学生がデジタル商品を試すためのショールームとなる可能性があります」と、ラーニング企業のマーケティング担当者は語る。そこでは、学生がテストを行うと自動採点され、教科書のどこでその情報を学んだかを教えてくれるような商品を試すことになるかもしれない。
それでも大手書店は大学の書店ビジネスは儲かると見ている。Amazonは大学のキャンパス内に小売店をオープンした。書店大手のバーンズ・アンド・ノーブルのカレッジ部門の店舗数は、2013年度に通常部門(B&N)の店舗数を追い抜き、8月初めには本体から独立した会社となった。
しかし、大学の書店の役割は変わりつつある。カリフォルニア大学デービス校では、昨年秋に大学運営の書店を通じ、学生らが教科書を安くダウンロードできる試みを始動した。
Inclusive Accessというこのプログラムを通じ、学生は新学期初日に無料で履修予定科目の教科書を入手できる。このプログラム開始から1年で、3,000人の学生が合計100万ドル(約1億2,200万円)以上を節約することができた。
紙版は200ドル~400ドル(約2万4,400円~4万8,900円)で販売されている本が、電子版なら50ドル~100ドル(約6,100円~1万2,200円)で入手できる場合もある。この秋にInclusive Accessは現状の5倍の1万5,000人に教科書を提供する予定だ。
数百ドルで販売されていた教科書が何故、50ドルになるのだろうか?
「教科書の販売元と値段を交渉する際、注文数によってディスカウントが可能です」と、カリフォルニア大学デービス校でInclusive Accessを立ち上げたJason Lorganは話す。一度に何千もの学生に販売することにより、大学はずっと安価に教科書を仕入れることができるのだ。
一方で「教科書の無料化」という流れも起きている。ライス大学工学部教授のRichard Baraniukが設立したOpenStaxはそれに向けた第一歩を踏み出している。彼はConnexions(現在はOpenStax CNX)というプラットフォームをつくり、学者たちがオープンソースで教科書を執筆できる環境を整えた。
2012年に彼は資金調達を行い非営利団体OpenStaxを設立。複数の専門家が内容をチェックした教科書をオンラインで無料公開しているほか、紙版の教科書も低価格で販売している。全米で2,000以上の高等教育機関がOpenStaxの書籍を利用している。
「将来的には無料でアクセス可能な教科書が市場の大きな部分を占めることになるでしょう。しかし、それでも有料の教科書は一定数存続するでしょう」と、教科書業界についてBaraniukは述べる。「今後、従来の出版社は、消費者らがその教科書に何故お金を払う価値があるかを示さなければならないようになります」と彼は話す。