暗号資産は、ハッカーにとっての金鉱として知られており、ある調査によるとハッキング被害額の累計は110億ドル(約1兆6200億円)を超えるとされている。
そんな中、デューク大学でコンピュータサイエンスと機械学習を学んだジョバンニ・ヴィニョーネ(22)は、この分野に魅力を感じ、パランティアの出身者が立ち上げた、決済系スタートアップMural(ミューラル)の創業エンジニアとして、暗号資産業界の課題を肌で感じていた。
彼は、何十万ドルもの費用を監査に投じたプロジェクトが、それでもなおハッキング被害に遭う様子を目にしてきた。そこでヴィニョーネは大学を中退し、人工知能(AI)を用いてハッキングを未然に検知するセキュリティプラットフォームのOctane(オクテイン)を立ち上げた。
Octaneは4月8日、675万ドル(約10億円)のシード資金を、暗号資産取引所Gemini(ジェミナイ)を共同創業したウィンクルボス兄弟の資産運用会社と、ベンチャーキャピタルのArchetype(アーキタイプ)が共同で主導したラウンドで調達したと発表した。このラウンドの他の出資者には、ステーブルコインのUSDCの発行元であるサークルやコインベースの元最高技術責任者(CTO)のバラジ・スリニヴァサンらが含まれている。
OctaneのAIモデルは、過去のハッキング事例や監査報告書、オープンソースのリポジトリといった広範なデータセットで訓練されており、フロントラン(他人の取引注文を事前に察知し、それを利用して自分に有利な取引を行う行為)やスワップ契約の脆弱性を利用した不正行為を1分以内に検出できるという。
同社の顧客には、USDCの発行元のサークルや、ブロックチェーン間のトランザクションを可能にするツールを提供するDecent.xyzなどの15社の法人が含まれており、Geminiもこのテクノロジーの導入を検討している。
「私たちはOctaneがスマートコントラクトのセキュリティの新たな基準を打ち立て、この業界全体により大きなレジリエンスと信頼をもたらすと信じている」とウィンクルボス兄弟はフォーブスに寄せた声明で語った。
Octaneは、現状ではスマートコントラクトの脆弱性に重点を置いているが、ヴィニョーネは将来的に、2月に取引所のBybit(バイビット)から14億ドル(約2070億円)相当の暗号資産が盗まれたハッキング攻撃のような、フィッシングやマルウェアに起因する高度な攻撃の検知と防止も目指すと述べている。
今回の調達資金は、プロダクト開発やエンジニアリングチームの拡充などの事業の拡大に活用される予定という。