すごい会社は、大きい会社とは限らない。世界が共鳴するビジネスを生む企業は日本の各地にたくさんある。Forbes JAPAN 2025年4月号では、そんな規模は小さくても偉大な価値をもつ「スモール・ジャイアンツ」企業を特集した。
厳しいコロナ禍を経てM&Aが進む中小企業だが、その技術の多様性には世界からの注目が集まっている。中小企業に関するさまざまな統計データから、スモール・ジャイアンツアワードの審査員を務めた内田研一が現状を解説する。
中小企業数

日本の中小企業数は、中小企業庁の最新調査によると約336万5000社(2021年6月時点)で、全企業の99.7%を占める。その数は減少傾向にあり、2016年からは毎年約4.3万社ずつ減少している。中小企業白書によると、コロナ禍で企業数の減少に比例してM&A実施件数が増加し、2021年には中小企業の0.9%がM&Aを実施している。
内田は、こうした中小企業の合併・買収の増加をポジティブに捉える。その理由のひとつは、M&Aを実施した企業の経常利益や労働生産性が増加していること。加えて、未来の日本にとって必要な技術が廃れずに継承されていくというメリットもある。「これからは会社単位の多様性ではなく、業界全体で技術の多様性を守ってくことが重要になるでしょう。近年ニデックが工作機械事業の強化を目的に積極的な企業買収を行っていますが、これによって技術が守られるという側面もありますよね」。
研究開発

日本企業は高度経済成長期に自動車や家電などでグローバルシェアを獲得してきたが、現在も電子部品、半導体製造装置、医療系機器など多様な技術でグローバルニッチな市場を取っている。例えば、EVや電気機器の安全装置を製造する生方製作所は主力製品であるモータープロテクターで世界シェアの約70%を占める。また、ジェトロによる日本国外のグローバル企業への調査によると、日本に研究開発拠点としての魅力を感じている企業が多い。「世界的にビジネストレンドが安定量産型から研究ベースでのイノベーション創出に変化するなかで、日本の研究開発力はとても重要です」(内田)。
経済複雑性

日本は、経済複雑性指標(ECI)ランキングで2000年から世界1位を獲得し続けている。ECIはマサチューセッツ工科大学のセザー・ヒダルゴ准教授(当時)が提唱した指標で、「技術の擦り合わせによって複雑なモノを生み出す能力」の高さを示している。内田は「ソニーグループは、家電・AV機器やゲームだけでなく、新しい技術を取り入れてCMOSイメージセンサーで過半数のシェアを握るなど、成長を続けてきました。同社に代表されるように、日本のモノづくりにおいては、さまざまな技術をもつプレイヤーが近くにいてネットワークが構築できているからこそ、複雑性が生み出され、それが強みになっているのです」と分析する。
設備投資

経団連の十倉雅和会長は1月27日、政府が開催した国内投資拡大を目指す官民合同の会合で、国内の民間設備投資額を2030年度に135兆円、40年度に200兆円まで伸ばすという目標を提示した。脱炭素やAIへの投資を拡大し、官民連携で成長を目指す狙いだ。中規模、小規模企業においても、設備投資額はコロナ禍で一時落ち込んだものの、22年に12.5兆円(中規模企業)まで回復し増加傾向にある(中小企業白書)。また、日本商工会議所の24年の調査によると、中堅・中小企業で拠点の新設・拡張などの投資を計画・検討する企業は計47.1%だった。「スモール・ジャイアンツ企業をみても、栃木精工は23年、TDCは24年に新工場を発表しています。産業団地や用地の不足が課題になっています」(内田)。