ドイツは軍事支出を大幅に拡大する方向だ。規模の拡大を目指すドイツ連邦軍は追加の予算によって、装甲車両や防空システム、軍艦、偵察衛星、あるいはレーダーやジャマー(電波妨害装置)、AI(人工知能)といった重要技術の配備や導入を増やせることになる。
ドイツを支出拡大に動かすことになった背景は言うまでもないだろう。ドナルド・トランプ政権下の米国はウクライナを侵略しているロシアに同調する姿勢を強める一方、ウクライナに対しては事実上降伏するよう圧力をかけている。こうしたなか、ドイツの次期首相に就任する見込みのフリードリヒ・メルツは、大西洋をまたいだ親密な同盟国だった米国からの戦略的な自立を唱えている。
ドイツは2024年度に、およそ720億ユーロ(約11兆7000億円)の国防予算を計上している。
メルツが首相に就任するのは4月以降になるが、それに先立って議会で調整を進め、国防費増額のために財政規律を緩める基本法(憲法)改正を先週成立させた。これにより、国防費のうち国内総生産(GDP)比で1%を超える分が「債務ブレーキ」の対象から外れることになった。
ドイツ政府は国防支出を累計で数千億ユーロ増やせると見込まれる。退任が近いオラフ・ショルツ首相はロシアがウクライナに全面侵攻した2022年、国防費をGDP比で2%に引き上げる目標に向けて1000億ユーロ(現在の為替レートで約16兆3000億円)規模の基金を創設しており、これに上乗せされるかたちになる。
追加の資金は、ドイツ政府が2024年末にまとめた文書で「国家安全保障・防衛産業の重要技術」として特定していた十数の技術などに振り向けられそうだ。これには以下が含まれる。
・安全な通信
・AI
・造船
・装甲車両
・センサー
・電子戦システム
・ミサイルおよびミサイル防衛
・人工衛星
・弾薬
・ドローン(無人機)
米国依存からの脱却
欧州諸国はこれまで、2国間あるいは北大西洋条約機構(NATO)の枠組みで米国に重要な能力の提供を頼ってきた。この文書に、それを代替していくドイツの指導者たちの決意を読み取るのは難しくない。