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2025.04.02 13:30

銀行業界がもっとも注目する「北國」の改革

杖村修司|北國フィナンシャルホールディングス 代表取締役社長

以降、杖村の意識も取り巻く環境も変わっていく。当時の東京銀行や日本興業銀行への出向、香港支店開設に従事した国際部門、人事部門など、北國銀行の内外で「外からの視点」と交わった。そして経営企画部門で大きな変革をスタートさせる。

「CRMを入れたいという社の方針をプロジェクトに拡大してスタートさせました。当時、経営陣は単にシステムの導入くらいに考えていましたが、それだけでは何も変わらない。やるなら全社改革のレベルでやるべきだと。ただそのまま伝えると経営を否定することにもなるから、組織能力再構築プロジェクトみたいな言葉に変えて進めました」
 
うまいやり方だ。この時、30代。不満を父にぶつけた経験の浅いころとは違う。杖村のなかで熱く盛り上がる全社改革を実現可能なかたちに仕立てていった。杖村が推し進めたテクノロジーの導入は、その代表的な実績のひとつとして「金融機関初の勘定系システムのクラウド化」につながった。

改革の本当の手応えはここ5、6年だという杖村は、昨年の能登半島地震で気づきがあったという。

「多くの被害に、弊社も300人態勢で対応した。あの経験は組織の足腰を試される機会になったし、昨年立ち上げた『地域未来創造』という官民・異業種が地域の発展を後押しする新会社の活動が一気に加速することにもなった。本当の危機感が改革への変化をうながすんだと教えられました」
 
杖村は震災から1年後の今年1月、持ち株会社の社名を変更すると発表した。親しまれてきた「北國」という名称そのものを取ってしまう大胆なものだ。

「私たちが何の強みで地域に貢献できるのか、銀行だけではないというブランディングが、今、必要なんです」

そして、現在、同社は25年ぶりの組織のアップデートをもくろむ。30代の杖村が起こした最初の改革の再現だ。

「ビジネスをより高みに上げるためにはやはり人のブラッシュアップ。人の集合体である組織もそれに合わせて能力を上げていく必要がある」

新しい北國FHDは、これからも地銀の常識を変えていくだろう。


つえむら・しゅうじ◎1985年慶應義塾大学商学部を卒業後、北國銀行入行。香港など海外勤務、人事部などを経て2000年に総合企画部に配属。社内改革に携わる。09年取締役。20年に頭取。21年北國フィナンシャルホールディングス社を兼務。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=苅部太郎

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