2025年2月25日発売の「Forbes JAPAN」4月号第二特集では、「地銀・信金ベストマッチング事例集」を掲載。地域経済のキープレイヤーである地方銀行や地域金融機関によるさまざまな協業のケーススタディを通して、地域から始まる新時代への希望のヒントを探っていく。財政指標のランキングだけでは浮かんでこない、千差万別の事例には、地域のこれからのカタチが詰まっている。
2019年に始まったオープンイノベーションプログラム「TECH BEAT Shizuoka」。地方都市最大級のイベントは、なぜ静岡で生まれたのか。
国内フィンテックビジネスの先駆者といわれるマネーフォワード、AI開発のPKSHA Technology、ネットショップ作成サービス提供のBASE。3社とも2012年設立のスター企業だ。これら3社は創業からほどなくして、静岡銀行とつながりをもった。まだ無名に近かったスタートアップと、地方を拠点にする金融機関。なぜ、関係性ができたのか。
「静岡銀行の中西会長とフィンテックの話で盛り上がり、我々に投資していただきました。10年前に当社に投資するぐらいですからね。中西会長をはじめ、経営陣は新しい取り組みに積極的な方々だと思います」。こう振り返るのは、15年に同行から出資を受けた、マネーフォワード社長の辻 庸介。「中西会長から尋ねられ、声をかけたのがPKSHA Technologyの上野山勝也さんと、BASEの鶴岡裕太さん。どちらもまだ上場前でした」。同行は19年にPKSHA Technologyと資本業務提携、BASEとビジネスマッチング契約を締結している。
スタートアップとテクノロジーの変遷がもたらす未来。静岡銀行には、先見の明があったといえる。14年にマネックスグループとの異業種連携を皮切りに、VCやスタートアップとのネットワークを構築。この流れをくむ象徴の一つが、「TECH BEAT Shizuoka」だ。発起人は、前出の中西会長こと、しずおかフィナンシャルグループ会長の中西勝則だ。フランス・パリで開催されている、欧州最大級のテックイベント「Viva Technology」に参加した中西が、レガシー企業とスタートアップが対等な立場で議論する姿にも触発され、静岡県との協働事業として、19年にこのオープンイノベーションプログラムを立ち上げた。
TECH BEAT Shizuokaは、24年までに全10回開催され、総参加者数はおよそ4万7000人。前回出展のスタートアップ企業数は139社だった。企画・運営を担当する地方創生部の井出雄大は「地域のレガシー産業のアップデートを促すことこそが真の目的。先端技術に関するリテラシーを高め、スタートアップの技術や考え方を取り入れたり共創したりすることで地域の活性化につなげる」。実際、出展するスタートアップ企業は7割が東京発なのが現状だ。

協業事例による効果も出ている。400カ所以上に分散している圃場をもつブロッコリー農家が、ドローンによる撮影とAIによる生育状況の分析技術を取り入れ、大きく生産性を向上させた。また、井出にとって、想定外だったうれしい事例もある。県東部の建設会社の加和太建設が、全国113社の中小の建設会社が加盟するコミュニティ「ON-SITE X」を立ち上げた。本来なら競合他社となりうるところ、各社の考え方やテクノロジーを共有することで、地方の建設業界全体を変革していこうという動きが始まったのだ。
「静岡県は、福岡や横浜のように地元単独で都市圏と呼べるような経済圏をもっていません。だからこそ我々の取り組みが、ほかの多くの地方銀行のベンチマークとなっています。我々が全国の地方銀行のロールモデルとなるべく、チャレンジを続けたい」と、静岡銀行ベンチャービジネスサポート部の恩田雄基は意欲をみせる。