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2025.01.30 13:30

福岡発スタートアップの多様性、ユニコーンだけが解じゃない

福岡市の高島宗一郎市長(左)。24年秋には国際ビジネスマッチングイベント「RAMEN TECH」を初開催した。

福岡市の高島宗一郎市長(左)。24年秋には国際ビジネスマッチングイベント「RAMEN TECH」を初開催した。

全国各地でスタートアップ支援や地域活性を目的としたファンドの組成が盛んになるなか、そこにかかわるプレイヤーが多様化し、地域経済のエコシステムに地殻変動が起こっている。ローカルスタートアップの出口戦略はIPO(新規株式公開)などに限定せず、持続的な地域発展にかかわり、社会貢献性の高い事例も多く見られる。そんなスタートアップを地域一体となって応援する生態系を「共感資本エコシステム」と呼ぼう。


全国に先駆けて、2012年9月に「スタートアップ都市」宣言を行った福岡のスタートアップエコシステムはどのように変化しているのだろうか。14年に国家戦略特区の1次指定を受け、スタートアップの法人税負担を軽減するなど、規制緩和と独自の政策を組み合わせながら、国際協力のあるビジネス環境づくりを手がけてきた。福岡市で創業を志す外国人に認められる「スタートアップビザ」は150人が申請し、東京都に次いで2番目に多い。

福岡から世界へと、スタートアップの海外展開支援にも力を入れてきた。海外研修プログラムとして、福岡の起業家の卵をシリコンバレーに300人以上派遣。すでに海外展開を考えるスタートアップについては、北欧最大級のスタートアップイベント「SLUSH」やシンガポールで開催されるイノベーションの展示会「SWITCH」など、積極的に福岡市がスタートアップを束ねて海外出展の機会を設け、攻めの支援を一貫してきた。

世界から注目されるスタートアップのモデルケースも誕生。18年に設立された遠隔病理診断システム開発を手がけるメドメインは、代表が起業前の九州大学医学部生時代から福岡市によるサンフランシスコ・シリコンバレー研修プログラムに参加していた。その後も市が海外VCを招へいしたのを機に、米国のVCのアクセラレーションプログラムに採択され、米国進出を果たした。

ユニコーンが絶対的な解ではない

ただ、東京やシリコンバレーとの決定的な違いは「ユニコーンが絶対的な解ではない」という点だ。ここ10年の福岡の変化について、九州に根差した投資活動を行うベータ・ベンチャーキャピタル代表の林龍平はこう指摘する。「コンパクトな街で政策が市民にも浸透し、スタートアップが身近なものになってきていると感じます。また福岡など九州発スタートアップからもIPO事例が出ている一方で、課題解決型の社会起業家も含めて幅広くスタートアップに挑戦したいという人が増えてきています」。ベータ・ベンチャーキャピタルでは、12年の1号ファンド設立以降、シード期を中心に86社に投資した。うち約7割は福岡を含む九州拠点のスタートアップだ。

林は「少子高齢化による介護や医療現場での圧倒的な人手不足など、福岡にいるからこそ見えてくる課題がある。起業前からその課題感や戦略を聞き、事業を一緒につくりにいくという価値が高まっている」と語る。

福岡市では、24年度から地域や社会の課題解決に取り組むソーシャルスタートアップの成長支援を打ち出した。単に補助金を交付するのではなく、そのスキームも独自性に富む。ソーシャルスタートアップに対して、個人版や企業版のふるさと納税制度を活用し、集めた寄附金を原資として、市から補助金を交付し、経営基盤の強化に取り組む仕組み。無農薬水耕栽培の野菜宅配を手がける「GG.SUPPLY」など10社を認定し、クラウドファンディング型ふるさと納税などによる寄附金集めを行った。その結果8社が150万~750万円の目標額を達成。創業初期の企業が多く、事業の社会背景や思いを言語化し、発信することでマーケティング力の磨き上げになったという。規模の追求だけではない社会起業家の応援を通じて、福岡らしいエコシステムの構築に挑み始めている。

文=督あかり 写真=田島ナナ

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