「重いものが持てるようになった」「肩こりや腰痛が緩和された」と言われ、介護施設の職員や肉体労働の現場から火がついた。簡単に説明すると、これは特殊な加工をした「トルマリン」「テラヘルツ」などの鉱石を塗料に混ぜて、シャツにプリントしたものである。中国医学の経絡(ツボの筋道)と筋肉を微弱に刺激することで、血行を促す。東洋医学的にいうと、「気を巡らす」ものだ。
「きっかけは、2017年に私が通う中国武術の稽古場で見せられた養生テープでした」と、佐々木は言う。
「テープを服の上から体のツボの部分に貼っただけで、力が変わる様子を目の当たりにしました。そこに意識が集中して、短時間だけ力が変わるというのです。気の流れの変化です。ならば、テープではなく、微弱の刺激を与えるものを貼れないかと思ったのです」
東洋医学や武術を体験したことがある人にとっては、そう難しくない原理だろう。テープを貼って気の流れが変わる話は、東洋医学の古典「黄帝内経」のなかに「移精変気」として原理が説明されている。スーパーマンのように力もちに変身するのではなく、人間の眠っている筋力を呼び起こし、「可動域」を拡張しているのだ。
ちなみに、中国で2000年前に書かれた「黄帝内経」は、基礎理論の「素問」と臨床の「霊枢」の2つの部門からなり、漢方医療からマッサージまで現代に続くあらゆる東洋医学が詰まった原典である。
つまり、佐々木が開発したリライブシャツは、2000年もの間、脈々と今も伝わる健康にまつわる東洋の無形の技術を、シャツという「形」にしたのだ。昔から消えることのない無形の英知を、現代の技術で「形」にする「温故知新」型の勝ちパターンといえるだろう。
「商品開発には3年かかりました。鉱石探しに1年、経穴に1年。ツボは人によって位置が微妙に異なるので、大多数の人から誰にでも効果が見いだせる最大公約数的な位置を探り出しました。最後の1年でプリント加工を研究しました」
シャツは国内外の大学や研究機関に依頼し、可動域の拡張が実証された。医療機器商品として届け出をしたことで、東洋医学のシャツから「着る医療機器」へと見せ方を変えた。
連続起業家の経験と、2,000年生き続ける技術の「温故知新」化、さらに大事なのが「志を高くもつこと」と彼は言う。
「人は何らかの使命をもって生まれています。私の使命は人のもつ能力を引き出し、健康的に生きる手助けをすることです」
人助けとは、他人の人生の「可動域」を少し拡張してあげることと言えるだろう。2合目の先を聞くと、彼はこう即答するのだった。
「志のある人を育てる『志教育』と社会貢献、そして世界平和です」
佐々木貴史◎1961年、福島県生まれ。高校卒業後に情報処理資格を取得し、プログラマーに。その後、不動産や飲食など、複数の事業を経営。2017年に「リライブシャツ」の研究を開始。21年にYouTube番組「令和の虎CHANNEL」に出演して大ブレイクした。