米国のドナルド・トランプ大統領が、同盟国である欧州諸国を参加させずにロシアとウクライナの和平交渉を開始し、ウクライナへの軍事支援と機密情報提供を停止したことを受け、これまで米国と足並みをそろえていた北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間では動揺が広がっている。欧州では、米国への軍事依存を減らしながら自国の防衛力を高めるべきだという議論が巻き起こっている。
英ロンドンを拠点とする国際戦略研究所(IISS)のバスティアン・ギーゲリッチ所長とベン・シュレア博士は次のように述べている。「欧州各国の首脳にとって、米国との関係を修復できるかどうかを議論したり、同国に対する不満をこぼしたり、トランプ大統領をなだめる策を練ったりすることは、単なる気晴らしにしかならない。むしろ、欧州の防衛力を強化しつつ、軍事と民間の分野でどの技術を米国に依存しても許容できるのか、あるいは許容できないのかを判断することを課題とすべきだ」
ここで、次のような疑問が出てくる。欧州の防衛産業には現在、米国製システムへの依存度を大幅に減らすだけの能力があるのだろうか? 欧州の防衛産業は、戦闘機や車両から後方支援や通信設備に至るまで、システム一式を製造しているのだろうか? 欧州の軍人は、米国が主役ではない状況を想定して十分な訓練を受けてきたのだろうか? さらにロシアが攻撃を仕掛けてきた場合、どのような方針や戦術が最も効果的なのかについて、欧州諸国の間で共通の理解はあるのだろうか?
これらは難しい質問で、即答はできないかもしれない。しかし、根底にある疑問は、ロシアが多大な人命と財産を費やしながら軍事的弱点を浮き彫りにしたウクライナとの血なまぐさい紛争から、32カ国が加盟するNATOに対する侵攻へと進む意図があるのかどうかだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がこうした野望を抱いていたとしても、同国が直ちにそれだけの能力を持つことができるとは考えにくい。
だが、軍事立案者はたとえどんなに可能性が低くても、最悪のシナリオを想定した上で計画を練る。こうしたことから現在、欧州各国の政府は防衛力強化に向け、軍事費を大幅に増額する可能性について盛んに議論しているのだ。先手を打ったのはポーランドで、防衛予算を大幅に増額し、米国と韓国から数百億ドル規模の武器供給を確保した。ポーランドはここ数年、ミサイル防衛システムや高機動ロケット砲システム(HIMARS)、アパッチ攻撃型ヘリコプター、各種戦術ミサイル、F16戦闘機の改良など、550億ドル(約8兆1700億円)相当の取引を巡り、米国と交渉している。