本田圭佑が2024年に立ち上げたベンチャーキャピタルX&KSKは、今年の2月に155億円の資金調達を完了した。10年間の運用期間で、企業価値が100億ドル(約1兆5000億円)以上の未上場スタートアップである「デカコーン」の創出を掲げている。
すでに複数の投資を行うなか、同月、営業データプラットフォームを手がけるスタートアップのインフォボックスに、X&KSKは初のリード投資として出資をした。本ラウンドはシリーズAで、ANRI、XTech Ventures、グリーベンチャーズ、三菱UFJキャピタル、電通ベンチャーズSGPファンドなどが参加し、総額は16億5000万円となる。
インフォボックスは、法人営業を行う企業に向けて営業のデータプラットフォームをSaaSで提供している。全国数十万社の企業データを保有し、その内容は利用中のITサービス、事業部ごとの連絡先や担当者名、決裁者のSNSアカウントなど多岐にわたる。自社サイトへの訪問履歴なども解析でき、商談成立可能性が高い見込み顧客を割り出すことができる。2024年2月にサービスを開始すると、ARR(年間経常収益)は4カ月で1億円、1年で100社を超える企業が導入。直近のARRは3億円に達するという。
ITツールによる営業活動の効率化を行う「セールステック」市場は、日本でもさまざまなプレイヤーが生まれ、すでに数十億円規模の資金調達を実施するスタートアップも出現している。そうしたなかで、X&KSKがインフォボックスに投資をした理由とは何か、デカコーンになりうる可能性はどこにあるのか。X&KSKの本田圭佑とインフォボックス代表取締役CEOの平沼海統に話を聞いた。
「営業が大嫌い」になった原体験
──X&KSKとインフォボックスの出会いと投資に至るまでの経緯を教えてください。
本田:約3年前に、自動運転に取り組んでいるチューリングCFOの盛島正人さんから平沼さんを紹介されました。定期的に平沼さんと会って、夜中までバーで飲みながら話しました。「海外展開できそうなの?」とか。最初はエンジェル投資だったのですが、サービスをローンチしてからも事業の伸びが良いということで、X&KSKファンドでも検討して投資することにしました。
平沼:サービスを開始して、1年以内には資金調達しようと考えていました。ただ、事業の進捗が順調だったので、ファイナンスを前倒して事業成長に集中することに決めました。
盛島さんは、モルガン・スタンレーの時代に、ZoomInfo(ズームインフォ:2020年、米国最大のIPOで当時の時価総額は130億ドル)というインフォボックスと同じ領域で事業を展開している米国企業のIPOに関わった方です。日本に帰ってきたタイミングで会いに行き、毎月のように事業構想を話したり、ズームインフォについて教えてもらったりしていました。
──セールステックを手がけるスタートアップが最近目立つようになってきました。
平沼:コロナ禍を境に市場は盛り上がってきました。対面のアポイントがZoomになったり、資料もデジタルで送付したりと、営業のあり方もがらりと変わりました。そうしたなかで、やみくもに電話をかけて新規顧客を獲得するやり方にも、違和感を覚える人が増えたように思います。
──インフォボックスのサービスはアプローチすべき相手を効率的に探せるということですね。
平沼:そうです。僕は旧来型の営業がめちゃくちゃ嫌いなんです。このサービスを始めたのも、かつて働いていた営業代行会社での働き方が原体験にあります。当時は個人宅に1日400件もの電話をかけていました。しかも深夜まで電話するので、相手からは「何時だと思っているんだ」と怒られる。求めてもいない人に営業をするってなんて無意味なんだろうという問題意識が募っていき、購買活動における情報の不一致をなくしていくプロダクトをつくることにしたのです。
社内の合言葉は「ARR6億円」
──他の企業でも、見込み顧客を効率的に探すというサービスは存在します。インフォボックスの競合優位性はどこにありますか?
平沼:私たちの強みは「幅、深さ、正確さ」を持ったデータです。企業の組織図や導入ITサービス、決裁者のSNSなど幅広いデータを持ち、ウェブ上の行動ログというクローズドデータから顧客の製品への関心度を算出でき(深さ)、そして収集したデータをアナログな方法で直接確認して正確さも担保しています。
ウェブの行動ログは独自のアルゴリズムで分析し、スコア化することで、ターゲット企業の温度感を判定し、適切なタイミングでアプローチを実施することができます。デジタル×アナログの掛け合わせでデータを生成している点が優位性です。

本田:現時点ではプロダクトとして競合が存在しているのは事実だと思います。それでも、平沼さんやインフォボックスが他の企業と違うのは中長期で目指している視座の高さです。抽象的な話ですが、それが売り上げの差となり、今年中に目に見える違いが出てくるのではないかなと考えています。