海外からの投資を呼び込むために富裕層に発給する「ゴールデンビザ」は、議論を招くこともある。しかし、今まさに気候変動の危機にさらされている平和で牧歌的な小国にとっては、このビザ(査証)制度が国を救うことになるかもしれない。太平洋に浮かぶ島国のナウルは、気候変動による海面上昇から国家を救うためにゴールデンビザを発給している。同制度から得られた収入は、政府の気候変動対策に向けられる。
ナウルの人口は約1万2000人で、バチカン市国とモナコに次ぐ世界で3番目に小さな国だ。国民は英語を話し、通貨はオーストラリアドルが使用されている。
ゴールデンビザ収入は海面上昇にさらされる住民の移転費用に
ナウルのデイビッド・アデアン大統領は「海抜高度上昇への取り組み」を呼びかけ、海面上昇と洪水の危機にさらされている同国の人口のほぼ9割に相当する約1万人の住民の移転費用を調達しようとしている。住民の移転先は島の内陸部となるが、そこは1900年代以降、輸出向けの大規模なリン鉱石の採掘が行われていたため、約100年にわたって居住不可能な不毛の地となっていた。政府は当面、新たな居住区や農場、職場の開発に向け、6500万ドル(約97億円)相当の資金調達を目指している。
ナウルのゴールデンビザ申請に必要とされる最低投資額は1人当たり13万ドル(約1900万円)で、2~4人家族の場合は13万7500ドル(約2000万円)、5人以上の家族の場合は14万5000ドル(約2200万円)からとなる。ナウルのゴールデンビザ保持者は、香港、アイルランド、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、英国などへビザなしで入国でき、他の多くの国のゴールデンビザとは異なり、ナウルでの最低居住日数も定められていない。
気候変動対策の資金調達としてのゴールデンビザ制度
島しょ国の多くは、気候変動対策向けの十分な資金を確保するのに苦労している。ナウルはドミニカなどの国々に続き、ゴールデンビザ制度を利用して費用を賄おうとしている。2024年11月に開かれた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、先進国が気候変動対策のために毎年3000億ドル(約44兆6300億円)を拠出すると宣言した。だが、米ブルームバーグ通信によると、この金額は必要とされる推定1兆ドル(約149兆円)をはるかに下回る。これに対する不満から、ナウルをはじめとする島しょ国は交渉から離脱した。
米航空宇宙局(NASA)の資料によると、ナウル近海の海面は1993年から17cm上昇しており、小さな島国である同国が直面している危機の深刻さが示されている。ナウルの気候は年ごとの変動も大きく、一時的に非常に大きな海面上昇が起こることもある。NASAは今後30年間で同国周辺の海面が19cm上昇すると予測している。