2023年9月8日、千葉県東部を大豪雨が襲った。台風13号の影響で線状降水帯が発生したことによるものだ。茂原市では1日の積算降水量は391ミリに達する記録的な豪雨となったわけだが、その約7割は海洋熱波がもたらしていたことが判明した。
2022年の秋ごとから本州の東の海上に黒潮続流が北に大きく蛇行するようになり、海面水温が高い「海洋熱波」が発生している。黒潮続流とは、南から房総沖まで流れてきた黒潮が、日本沿岸から離れてさえらに続いていく海流のこと。黒潮続流の大蛇行は人工衛星による海面温度の観測が始まった1992以降、はじめて捉えられたという。これが千葉県東部の豪雨に影響している可能性は指摘されていたものの、科学的な裏付けはなかった。
そこで、立正大学、九州大学、海洋研究開発機構らによる研究グループは、海洋開発機構が運用するスーパーコンピューター「地球シミュレーター」を使い、名古屋大学が開発中の領域雲解像モデルによる数値実験を行った。それによると、豪雨の前半では海洋熱波から活発に熱と水蒸気が送られ千葉県東海岸に前線が発生し、暖かく湿った空気の流入で降雨量が増したことがわかった。さらに後半には、海洋熱波の影響を受けた空気が北東から陸上に流れ込み、前線を発達させていた。
シミュレーターでは実際の地上降水量の分布を再現し、海洋熱波がなかった場合と比較しているが、その差はなんと300ミリ。もし黒潮続流がなく海洋熱波が発生していなければ、茂原市の降水量は90ミリ程度で収まっていたことになる。
だが、自然災害に「もしなかったなら」と考えても何の足しにもならない。むしろ、いつもは100ミリ程度の雨も、海洋熱波によって3倍に増える恐れがあると覚悟して備えることが大切だろう。立正大学データサイエンス学部の平田英隆准教授は、今も日本周辺では海面水温がとても高い状態になっていて、豪雨などの極端な気象現象の発生リスクが高まっている可能性があると指摘し、「このようなことを頭の片隅においていただき、日ごろからの防災に対する準備や、いざというときの適切な防災行動につなげていただきたい」と話している。