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2025.03.04 13:30

「高齢者の経営」に思うこと:川村雄介「飛耳長目」

学生時代、春まだ浅く氷雨が降るなか、病院に行こうと都バスに乗った。乗客の大半が年配者だった。わが物顔に荷物をシートに置き、大声でおしゃべりに夢中になっている。彼らのバス代は無料だった。病院に着く。ロビーも高齢者であふれている。待合室で順番を待つ長い間に、老人たちの会話が耳に入る。年金、テレビ番組、孫の様子、温泉旅行等々、実にやかましく話題が途切れることはない。

長患いだった20代の私などよりはるかに元気だ。ここにいる老人の多くは、重篤な病を抱えているわけではなく、病院のロビーが高齢者のサロンと化していたのである。治療代が不要だったからだ。

老人パスで無料のバスを利用し、暖房のきいた病院ロビーをタダで使えた。美濃部亮吉都政のなせる業だった。バイトに追われる若い私から見ると、東京は老人天国だった。

あれから半世紀、日本の高齢化は益々進んでいる。今や、私自身が高齢者だ。しかし、バスも電車も若者と同じ料金を支払う。病院でも白い紙製の高齢受給者証を示しながら(最近、マイナカードで不要になったが)3割負担だ。年金だけでは生活ができないから、私も幼なじみも皆、働いている。妻たちは、子どもたちが共働きなので孫の育児に追われている。半面でニュースや新聞には「邪魔な高齢者」と言わんばかりの批判的言説が多いし、ネットの酷い書き込みを見ていると鬱になりそうだ。

折しも、某テレビ局の不祥事が国民的に大きな関心を呼び、その根本原因は同テレビ局グループに長く君臨する老人経営者の存在にある、と激しい非難が浴びせられた。

この問題は、真偽が不分明ななかでコメンテーターたちが甲論乙駁、回数や時間ばかりを費やす記者会見や火をつけた週刊誌の記事訂正などもあって、カオスに投げ込まれている。
 
ただ、一致している批判は、同グループの高齢経営者がこの問題の元凶だ、とする点だ。

企業経営でも若さが尊ばれ、老害という言葉はあっても「若害」という表現はない。「長く居座る」高齢経営者は老害以外の何物でもない、と言わんばかりの風潮である。若さは挑戦、意欲、革新、成長であり、老いは保守、無気力、反動、停滞を意味するものととらえられる。
 
だが、そのような断定が当てはまらないケースにも目を向けておくべきである。高齢者が経営をリードする、東京証券取引所プライム市場上場の5社のパフォーマンスを調べて驚いた。光学から医療分野までカバーする大手精密機器メーカー、M&A中心に大成長した大手電機メーカー、地方発で高技術の大手化学メーカー、ブランドを誇る大手カジュアル衣料会社、誰もが知っている家具大手の5社である。

5社の中で一番若いトップは76歳、最高齢は(一昨年亡くなったが)96歳だった。どの会社もコロナ禍を乗り切り、最近5年間の利益率も良好である。
 
企業への評価を端的に示すのが株式関連指標だ。最近では東証が掲げる株価純資産倍率(PBR)が注目されている。PBRは株価と一株当たりの純資産額との比率を示し、両者が同額なら比率1、株価が純資産額を上回れば1以上、下回ると1未満となる。東証はPBR1以上を要請しているが、約40%の上場企業が1割れとなっている。他方、この5社のPBRは1.5〜8という高さである。

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文=川村雄介

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