ターニングポイントとなったのは、1998年のこと。元従業員を介して、スポーツメーカーのミズノから、ゴルフ用グローブの開発・生産の依頼が舞い込んだ。康則は、当時の様子をこう話す。
「チャレンジですよ。キープチャレンジ。でも、苦労はそんなになかったと思う。縫製にはより繊細さが求められたかもしれないが、基本的にはそんなに大きな問題はない。このミズノさんのゴルフグローブを始めたことで、製品や取引先に大きな広がりができたことが非常にラッキーだった」
ナイガイはこれを機にスポーツブランドとの信頼関係をコツコツと積み上げ、2020年には業界でもサプライヤーに対する基準が非常に厳しいとされる、ある世界的な有名スポーツブランドに認められ、野球のバッティンググローブの開発をスタート。それが呼び水となり、現在ではアンダーアーマー、キャロウェイ、テーラーメイドなど多くのグローバル顧客をもつようになった。プーマとミズノのグローバルサプライヤーにも選ばれている。「23年にプーマのドイツ本社にてサプライヤーサミットに参加させていただいたのですが、その場にいた日本人は僕だけでした」。
入社から11年で社長になった田中は、新たなパーパスを設定した。それが「手袋を通して、人類のパフォーマンスを最大化する」だ。
「私たちが提供する手袋のフィット感や品質は、アスリートや使う人のパフォーマンスに直結します。だからこそ、ナイガイにしかできない強みを持って、これからも丁寧なものづくりをしていきたい。そしていつかは『究極にして至高の手袋』を実現させた自社製品を生み出せたらと思っています」
田中康一◎1983年、香川県生まれ。慶應義塾大学商学部在学中に、バンクーバーへ留学。大学卒業後は、キャロウェイゴルフでの勤務を経て、2011年ナイガイに入社。営業部門や副社長などを経て、23年3代目の代表取締役社長に就任した。新たなパーパスを実現させるべく、世界中を飛び回る。