37万部のベストセラーとなった『「学力」の経済学』の著者である中室牧子氏が、9年の時を経て、世界で最も権威のある学術論文誌の中から信頼性の高い研究を厳選、これ以上ないくらいわかりやすく解説した待望の新刊『科学的根拠(エビデンス)の子育て』を発表した。
以下、ダイヤモンド・オンラインより、同書からの引用記事を紹介する。
どうすれば子どもの「好奇心」が伸びるのか
ここでは、子どもたちの「好奇心」を伸ばすプログラムについて詳しくご紹介します(*1)。
そもそも、好奇心は、より深く学ぶことへの原動力となります。これを掻き立てる1つの方法は、「既存の概念に疑問を抱かせる」ことです。
そこで、教員、童話作家、映像制作の技術者、教育学者などさまざまな専門家がチームとなって教材づくりを行いました。科目は理科です。そして、この理科の教材を使って各学校の担任の教員が授業ができるように、研修も行いました。
この教材の中身や授業の様子を撮影した写真が図1です。多くのアクティビティが含まれており、子どもたちが楽しんで学べるように工夫されています。
たとえば、この教材で「太陽系」について学ぶとき、担任の教員は「太陽系とは何か」などという小難しい説明から始めたりはしません。子どもたちに、宇宙の神秘についてのミステリー調の映像を見せるところから始めます。
それから、子どもたちに対して、自分が興味を持ったところを率直に表現させたり、疑問を持ったところを質問させるようにします。こうすることで、子どもたちは授業の内容に関心を深め、みずから答えを探したり、調べたりするようになるのです。
既存の概念に疑問を抱かせることに重点を置いたこの教材を用いて、担任の教員は1年間、理科の授業を行いました。
好奇心が高まると知識が定着し、学力も上がる
このプログラムは子どもたちの好奇心を高めることに成功したのでしょうか。
ここで子どもたちの「好奇心」なるものをどのようにして測ればよいのか、という疑問が生じます。スール・アラン教授らは、興味や関心を持った情報に対して、最大いくらまで支払ってもよいと思うかという「支払意思額」で子どもたちの好奇心を測りました。
まず教室で「宇宙」や「乗物」など、小学生が関心のあるテーマについて書かれた8冊のパンフレットを渡します。図2は、このパンフレットの表紙です。
各冊子には、小学生があっと驚くような情報が含まれています。「宇宙」のパンフレットには「火星の夜明けの色は青」、「乗物」のパンフレットには「飛行機のブラックボックスの本当の色はオレンジ」といった具合です。
そして次に、子どもたちに10枚のトークン(そのときにしか使えないおもちゃの通貨)を渡し、このトークンを使えば人気の文房具と交換できること、8冊のパンフレットのうち1冊だけはトークンと交換できることを伝えます。
ただし、文房具には値段がついているのに対して、パンフレットには値段がついていません。自分がパンフレットを手に入れるのに、10枚のうち何枚のトークンを使うのかを自分で決めるように指示されます。
しかし、自分が付けた値段が、クラスの平均を下回った場合、パンフレットを手に入れることはできず、10枚のトークンはすべて文房具と交換することになります。このため、自分が興味を惹かれたり、関心を持ったパンフレットを手に入れるためには、支払ってもよいと考える最大のトークンを使わなければならないのです。