2. 群集心理は、危険なほど強力
ゲームが終わるたび、参加者たちは、このまま続けるかどうかを投票で決定する。仲間たちの残酷で無意味な死を目撃したら、その選択は明白だと思うかもしれない。しかしイカゲームは、集団心理の影響を力強く描き、集団の圧力が個人の判断を覆す可能性があることを示している。集団が関わっているとき、私たちのほとんどは全く異なる決断を下すというのが真実だ。イカゲームはこうした現象を、最も生々しい形で提示している。
私たちは観衆として、参加者がいじめられ、強制され、ゲームを続けるよう脅迫されるのを見守ることになる。集団の一員になると、人は選択の感覚を失い、自分一人では決して考えないような行動をとる可能性があるということだ。
フランスの心理学者ギュスターヴ・ル・ボンは、1895年の著書『群衆心理』(邦訳:講談社学術文庫)の中で、集団力学が個人の理性にどのような影響を与えるかについて論じている。そして多くの場合は、カリスマ的なリーダーの存在によって、大勢の人が非合理的になり、ほとんどの人が流れに従うとしている。
集団の意思決定は、個人の責任感を薄めてしまう。人々が、「群衆の求めるもの」に連帯感を見いだすためだ。イカゲームでは、同盟が結成され、解消されるなかで、「群集」に後押しされた登場人物たちが、どんどん残酷な決断を下すようになっていく。
3. 人間のモチベーションは複雑
お金は人々に「境界線を越えさせる」かもしれないが、彼らがゲームをし続ける理由は何だろう? イカゲームは、個人のモチベーションがどのように変化していくかを描いている。当初は、全員が金銭的な利益を求めてゲームに参加する。これは外発的な動機付けの典型的な例だ。しかしゲームが進むにつれて、救済やプライド、人間関係といった内発的な動機への変化が起きる。
これは、イカゲームの重要な部分だ。なぜなら、ほとんどの人はお金のために多くのことをするが、内発的な動機付けがなければ、どれほどの大金であっても、自分自身と他者をあれほどのリスクにさらす価値はないためだ。
イカゲームは、フィクションとリアリティ番組の両方で、単に人々を楽しませるだけでなく、「極限状態にある人間の本質」を映し出す鏡の役割を果たしている。その残酷なゲームと、登場人物たちの複雑な力学を通じて、人が本当に限界まで追い込まれたとき、道徳的なジレンマのなかをどのように進んでいくかについて、洞察を得ることができる。
(forbes.com 原文)