このドラマは、経済的に追い詰められた人々が一獲千金のチャンスを求め、幼少期に親しんだ一連のゲームに参加するというものだが、ゲームの敗者には死が待っている。賞金額が上がるにつれて、参加者たちは自らの選択の残酷な結果に直面し、人間性の暗い側面があらわになっていく。
その強烈な物語を通じて、人間の本性がむき出しになり、生存本能や集団力学、意思決定に関する不快な真実が見えてくる。
人々はこの番組に引き付けられ、そのテーマは、フィクションから現実へと拡大している。このシリーズから着想を得たリアリティ番組『イカゲーム:ザ・チャレンジ』までつくられた(ただしこちらでは、死は待ち受けていない)。
イカゲームは、自分が同じ状況に置かれたらどうするだろう、と考えさせられるドラマだ。私たちのほとんどは、イ・ジョンジェ演じる主人公ソン・ギフンの役を勇敢に引き受ける、と信じたいところだが、実際の行動パターンはもっと複雑だ。
以下では、このドラマが人間の行動について教えてくれる3つのことを紹介しよう。
1. 道徳は、必ずしも生存に勝るわけではない
ほとんどの人は、自分には強い道徳観があると信じたがっている。生活のなかで、比較的「日常的な」課題に直面したときには、おそらくその通りだろう。私たちの多くは、自分の利益のために隣人から盗みを働いたり、隣人を傷つけたりしないことは容易だと考えている。なぜならそれは、おそらくすでにニーズが満たされているためだ。
しかし、他者を裏切ることに自分の命がかかっている場合、状況は大きく変わる。イカゲームで参加者たちは、苦痛を伴うこのジレンマに繰り返し直面する。
シーズン2に登場する自称「不良」のラッパー、サノスのような人物を、その疑わしい行動や、他者より自分のウェルビーイングを優先する選択を理由に嫌うのは簡単だ。しかし心理学の研究は、命がかかっている状況では、おそらくほとんどの人が、想像もできなかったような行動をとると示唆している。
学術誌Psychoneuroendocrinologyに発表された包括的な研究では、重度のストレスは、認知機能や情緒機能に変化をもたらすことがわかっている。つまり、極限状態に置かれると、理路整然とした思考や感情のコントロールが難しくなるということだ。
こうした極端な精神状態になると、多くの人は、他者のウェルビーイングより自己保存を優先する可能性が高い。なぜなら、私たちには生存本能が備わっており、通常は、どのような犠牲を払ってでも生き延びようとするためだ。
イカゲームは、どんどん複雑化する道徳の迷路を進む登場人物たちの姿を通じて、この事実を見事に描き出している。決断のときが来るたびに、登場人物たち、そして私たち視聴者は、道徳に関する不快な自問を強いられる。
常に冷静で、自分のニーズよりも他者のニーズを優先する主人公の姿はドラマにうってつけだが、ゲームの恐怖に直面したとき、私たちのほとんどは、高い道徳的基準を維持できないだろう。