しかし、今回は違った。今回のダボス最大の目玉ともいえるドナルド・トランプの特別演説とリモート対話が4日目の17時にセッティングされていたからだ。世界の政治・経済に大きな影響を与えるトランプの発言を聞き逃すまいと、会場となったコングレス・ホールには世界各国のリーダーやメディアが押し寄せた。
アメリカで商品を製造する外国企業は恩恵を受けるが、そうでない企業には関税をかける――そう断言するトランプのライブ映像を見ながら、私はというと個人的な山場に向けて最終準備を進めていた。トランプの対話終了直後に開かれるセッションのモデレーターという役目をおおせつかったのである。
「フレキシブル・ワーク・モデル」をどう構築するか
セッションのテーマは「フレキシビリティ2.0」。世界各国でギグエコノミーが拡大するなか、持続可能で公正なフレキシブル・ワーク・モデルを確保するには何が必要なのかを、国や立場を超えて議論するというものだ。近年、リモートワークやプロジェクト型の雇用契約が急増している。世界銀行が2023年に出したリポートによると、オンラインを通じたギグワークは世界の労働力の最大12%を占めるという。また、同リポートではギグワークは若者や女性、低技能労働者に労働機会を提供することで人々の包摂性を支援することができるとしている。
ギグエコノミーの拡大に伴い、労働市場はより柔軟な方向へとシフトしている。だが、いいニュースばかりではない。ギグワーカーは常に仕事があるとは限らず、所得は不安定になりがちだ。また、ギグワーカーに与えられる仕事の一部は低賃金で、労働者間の所得格差を広げる要因にもなりえる。こうした問題意識を踏まえつつ、セッションでは持続可能で公正なフレキシブル・ワーク・モデルを確保するための課題や方法について議論が繰り広げられた。

ランスタッド会長兼CEOのサンダー・ヴァント・ノールデンデは、同社が実施した世界の働く意識調査の結果を紹介。25年の調査では、仕事の動機づけ要因として「ワーク・ライフ・バランス」が初めて「給与」を上回り、会社と自分との価値観の一致や働き方の柔軟性を求める傾向が高まっていることを示した。
働く人たちの意識の変化はギグエコノミーを後押ししている。ブラジル発のフードデリバリー企業として躍進を遂げ、今では年間約100万件の直接・間接的な雇用を創出しているというiFoodのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)ルアナ・マルケス・ガルシア・オゼメラは、「労働者はより多くの柔軟性、自立性、純収入の増加を求めている。特に女性については、プラットフォームを通じて断続的に働くことで通常の雇用形態よりも効率的に収入を得られるケースがある」と説明。iFoodのようなギグエコノミーは小規模事業者、労働者、顧客の三者にとって魅力があると話した。