しかし同時に、「働き方の柔軟性には創造性や革新性といった良い面もあるが、社会保障の欠如や職業の移動が限定的なこと、搾取や差別のリスクといったコストも伴う」と指摘。ある仕事から別の仕事に移っても持ち運べる年金プランやスキルアップ支援など、労働者の尊厳を守りながらエンパワーメントする仕組みが求められるとした。
ギグワーカーを数多く抱える企業は、労働者のセーフティーネットをどう捉え、どのような策を講じているのか。iFoodのオゼメラは、労働者の70%以上が大学の学位を取得しておらず、26%がギグワークを始める前は失業していたというデータを紹介し、「プラットフォームで収入を得ること自体がセーフティーネットになっている」と説明。さらに、企業として労働者に無料で保険を提供したり、AIを活用して効率性の向上などを図ったりしていると話した。
また、ブラジルでは多くの労働者が低所得者や低学歴であり、差別や暴力、階級主義が問題になっていると指摘。サービス業の労働者が尊重されることや、自分の仕事に誇りを持つことの大切さを説いたうえで、無料の司法サービスやメンタルヘルスケアサービスの提供などを通じて「個人間の関係や人間の行動そのものを変えていく必要がある」と訴えた。
労働者を取り巻くこれらの課題に対して、政府機関はどのように向き合うべきか。エジプトの投資・対外貿易大臣を務めるハッサン・エルカティブは、ギグエコノミーのような新興マーケットは人々の潜在能力を素早く活用し経済の活性化させる可能性があるとしつつも、「システム全体をカバーするインフラが必要だ」と述べた。

一方で、「起業家精神を促進するためには、政府は少なくとも3から5年の間は干渉するべきではない」とも。「規制が重要だという意見もあるが、特に非公式な労働を公式化する場合、その規制が過剰であってはならない。適切な枠組みを整備し、労働者に自立性を与え、経済を魅力的にすることが重要だ」と、自身の見解を述べた。これにはヨハネスブルグ大学のムブラも、「政府は従来の考え方にとらわれず、新たな視点で問題に取り組む必要がある」と同意を示した。
ギグワーカーの待遇については、日本でも厚生労働省を中心に議論が進められている。世界中で勃興する新たな市場について、どうルールメイキングしていくのか。さまざまな国や地域から異なる立場のステークホルダーが集まり、それぞれの視点を持ち寄りながら議論を重ねる。セッションのモデレーションを通じて、これぞダボスのスタイルだと実感した。