当時、ソウルの外交団では、この米国の強い態度に関心が集まった。韓国が事前に同盟国の米国に戒厳令を通告していなかったことや、バイデン大統領らの肝いりで24年3月、民主主義サミットをソウルで開いた経緯から、強い不満や失望感があったという指摘が出た。過去の韓国戒厳令の際、盛んに「米国が裏で操っている」という指摘が飛び交ったため、「米国黒幕説を打ち消すため、韓国と距離を置いたのだろう」という説もあった。そのなかで、少数だったが、もっともらしく語られたのが、「トランプ氏が大統領就任後に戒厳令を考えるかもしれない。だから、トランプ氏を牽制するために、民主党政権として強硬に反対する意思を示したのだ」という説だった。
また、韓国の戒厳令では、実弾を装填していなかったとはいえ、戒厳軍が実際に出動した。戒厳令の謀議に、当時の国防相や陸軍防諜司令官らが加わっていたとして、関係者が逮捕された。ソウルの外交筋の一人は「韓国軍の対応と比較した場合、米軍は徹底的に民主化されているなと思った」と語る。
それでも、第2次トランプ政権で、再び同じような危機が行らないとは言い切れない。渡辺亮司調査部長も「トランプ氏に忠誠を誓うピート・ヘグセス氏が国防長官に指名された。米国内では、ヘグセス氏がトランプ氏の指示に抵抗できないのではないか、と懸念する声も多い」と語る。すでにトランプ氏陣営は大統領就任前に、更迭すべき米軍幹部のリストを作っているとも伝えられている。
頼みの綱は、米上院の穏健保守勢力だが、議員53人のうち、「MAGAセネター」と呼ばれるトランプ支持派議員が30人を超える勢いだという。トランプ氏は、米上院共和党穏健派の抵抗もあり、マット・ゲーツ下院議員の司法長官起用を断念したとされるが、穏健派がすべてトランプ氏の人事を否定できるわけもない。
韓国軍は、尹錫悦大統領の戒厳令騒ぎで大きな打撃を受けた。世界最強の軍隊と言われる米軍に同じようなことが起きれば、その影響は全世界に及ぶだろう。
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