犯罪発生率7割減も 日本発予測AIが「悲しみ」を減らす
梶田真実|Singular Perturbations

「世界から悲しい体験を減らしたい」と、AI技術を用いて犯罪予測するシステムを開発するのがSingular Perturbations(シンギュラー・パータベーションズ)代表の梶田真実だ。警察や公安を主な顧客対象として、犯罪件数の多い中南米を中心に、13の政府機関で導入実績をもつ。
同社のシステムは、過去の犯罪データや衛星画像、失業率の分布、交通情報などさまざまなデータをAIで分析し、いつ、どこで、どんな犯罪が起きるかを予測する。現地の警察官が、犯罪が発生しやすいエリアを把握し、効率的に巡回するためのスマートフォンアプリも展開。ブラジルのミナスジェライス州での実証実験では、導入後2カ月で犯罪発生率を69%減少させる成果を上げた。
創業のきっかけは、梶田がイタリア滞在中に経験したスリ被害だった。統計物理学の博士号をもつ梶田は「世の中を良くするために自分の知識を生かしたい」と防犯分野でのAI活用を試み、2017年に起業。23年10月にはサンパウロ市に初の海外支社を設立した。
「犯罪を予測することで、信号が止まって渋滞が起きたり、工場が稼働できず損失がでたりといったことを防ぐ副次的効果も大きい」という。今後は、ドローンやロボットを活用した「人を使わない警備」システムの開発も進める。独自のAI技術で日本から、世界の安全保障分野に新たなソリューションを提供し続けていく。
メタバース時代の新興勢力 2.5次元IPが開くエンタメ革命
倉田将志|ウタイテ

歴史に残るエンターテイメントカンパニーをつくる──。2度のM&A経験をもつシリアルアントレプレナーの倉田将志は、エンターテインメントの大きな転換期を見据え、2022年にウタイテを創業。すでにシリーズAで30億円を調達し、累計調達額は49億円に達している。
同社が展開するのは、2.5次元IP総合プロデュース業だ。2.5次元とは、インターネット上ではアニメ調のイラストで活動し、リアルなライブステージでは3Dで表現する、デジタルとリアルを融合させた新しいエンターテインメントの形態である。
5人組アイドルユニット「きみとぴあ!」はデビュー1カ月でYouTube登録者数10万人を突破。こうした実績やコンテンツの質と量を担保する充実したサポート体制、海外展開の可能性などを理由に「実力をもったタレントの移籍も増えてきている」と倉田は手応えを語る。
グッズ販売とリアルライブを主軸に、オンライン配信に依存しない収益モデルを構築し、創業2年で従業員は約200人、アーティストとそのチームをM&Aのように巻き込みながら成長を続ける。
「デビューして早々に1000人規模のライブを行うことが当たり前に起きている。歌手ではなく歌い手を選ぶ人も増えている」と、新たな音楽活動のかたちとしても浸透しつつある。「インターネット上で音楽活動を行う“歌い手”は日本独自の文化。このジャンルで世界ナンバーワンを目指す」と、新たなエンターテインメント経済圏の確立に挑む。
半導体の電力効率を10倍に ノーベル賞の新素材を社会実装
佐藤太紀|TopoLogic

従来の物質にはない特殊な性質をもつことで注目されている新素材がある。2016年のノーベル物理学賞の受賞テーマにもなった「トポロジカル物質」だ。この実用化を目指しているのが、東京大学発スタートアップのTopoLogic(トポロジック)である。
トポロジカル物質は、物質の内部には電気が流れない一方で表面には電気が流れるという、絶縁体や金属とは異なる特性をもつ。生活環境ではその性質が変わってしまうという課題があり、これまで実用化は進んでこなかったが、17年に東京大学大学院教授の中辻知が、常温・常圧でも性質を保ち、半導体メモリや電子デバイスなどに応用できる方法を開発。この研究成果を社会実装するべく同社が設立された。
熱流束センサや磁気メモリ(半導体メモリのひとつ)の設計開発を進めている。熱流束センサは、ごくわずかな熱も従来比100倍以上の速さで検知でき、現在、自動車メーカーなど10社と技術検証を推進中だ。磁気メモリは、25年に試作品が完成予定で、従来のメモリと比べて消費電力を10分の1に抑えられるほか、放射線の影響を受けにくいという特性をもち、宇宙事業への展開が期待できるという。
自社で製造は行わず、回路設計のIP(知的財産)ベンダーとして開発ノウハウやライセンス供給で収益化していく戦略だ。代表取締役の佐藤太紀は「応用方法もさまざま。技術とビジネスの両輪で、市場絞らずあらゆる可能性を見いだしていきたい」と意気込む。