Forbes JAPANが主催する「WOMEN AWARD 2024」では、そんな閉塞した社会に風穴を開ける新たなリーダーを選出。
個人部門で「インクルージョン賞」に選ばれたのは、日本IBMの川田篤。20年にわたりLGBTQ+の啓発活動に取り組み、日本の企業では初となる同性パートナーシップ制度の実現に貢献。社内外に変革をもたらした行動力は、今や日本企業のD&Iをリードするまでに。
ある調査によれば、自分自身の性的指向や性自認を隠している場合、「この発言は大丈夫か」「変に思われないか」などと考え、心理的負担を抱えるため、その人が本来発揮できる能力の5~10%を常に毀損しているという。それは仕事のパフォーマンスにも直結するので、企業にとっても重要な問題となっている。
実は、これはLGBTQ+の当事者だけでなく、誰もが当てはまる問題でもある。国籍や性別、障がいもそうだが、家族や健康など人に言えないような悩みを抱えることは、誰しも十分にありうる話である。こうした部分に自らの体験を通じて変化を促し続けているところが、アドバイザリーボードに「真の変革者」と言わしめ、川田篤への高い評価につながった。
川田はLGBTQ+の当事者として、誰もがありたい自分のままいられる社会を実現するために、これまで変革をリードしてきた。その道のりは葛藤と困難に満ちていたが、誠実な人柄で道を拓き、目の前の景色を変えてきた。
日本IBMが、日本の他の企業に先駆けてLGBTQ+に対する理解促進と制度拡充の活動を開始したのは、今から20年以上も前の2003年のこと。当時、川田は人事部の所属ではなく、自身が当事者であることもオープンにしていなかった。
米国に出張した際、川田は米国本社の上司と行動を共にするなかで、その上司がLGBTQ+の活動に携わっていることを知る。「相手が当事者であることを知りながら、自分が何も伝えないのはおかしいのではないか」と、自分も当事者だと告白。それを機に、全世界のLGBTQ+の当事者が200人ほど集まるIBMのリーダーシップ研修に誘われることになる。
日本でカミングアウトもしていなかったので、川田は休暇を取り自費で参加。その姿が当時のアジア統括社長の目に留まり、日本の人事も知るところとなり、川田は日本IBMにおける活動を担うことになる。長い挑戦の日々の幕開けだ。
とはいえ、人事も川田も何から始めてよいのか見当もつかない。LGBTという言葉自体が知られていない時代だ。海外の先進的な取り組みが伝わってくる外資系企業のネットワークをきっかけに、少しずつ当事者の輪を広げていった。
08年、全社としてダイバーシティに積極的に取り組むことが決まり、性的マイノリティ、女性、外国人、障がい者、ワークライフバランスの5つが重点項目に掲げられた。これで活動が大きく前進するかと思いきや、意外な壁にぶつかる。IBMでは社内変革に取り組む場合、目的意識をもった本人が声を上げていくからだ。