WOMEN

2025.01.20 13:30

「Best of IBM」受賞社員がカミングアウトした理由:WOMEN AWARD 2024〈個人部門〉受賞者インタビュー

川田 篤|日本IBM 人事 ダイバーシティー&インクルージョン推進

「当時は社内の誰もカミングアウトしておらず、いじめや偏見もある時代。名乗りを上げるとは考えられませんでした」
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それでも匿名で連絡があり、「同じ志をもつ人が社内にいるとわかって、本当に心強かった」と川田は振り返る。

やがてその活動は社外へと広がり、12年、日本IBMは国際NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチなどとともに、任意団体「work with Pride」を設立。今もこの組織が、日本の企業のインクルーシブな職場づくりを後押しする。
IBM では、LGBTQ+当事者とアライによるコミュニティが活動の中心となっている(写真は2019年)。

IBM では、LGBTQ+当事者とアライによるコミュニティが活動の中心となっている(写真は2019年)。

心のかせが外れた日

そして15年、川田自身が大きな決断をする。契機は、全世界のIBMで最も優秀な500人を表彰する「Best of IBM」賞を、川田が受賞したことだ。

「受賞が名誉であることはもちろんですが、副賞が素晴らしくて(笑)、ハワイにペアで招待してもらえるのです。そこに誰を連れていきたいかというと、やはり自分のパートナー。これを会社に伝えないわけにはいかない。今がカミングアウトのチャンスだと思いました」
 
決断の裏には、ずっと抱えてきた自責の念があった。部門のマネジャーを務めていた川田は、以前からメンバーに対し「仕事でもプライベートでも、何かあったら相談してほしい」と言い続けていたにもかかわらず、自分自身のことは何も明かしていない。罪悪感から、飲み会の席で号泣してしまうこともあった。心配する周囲に理由を明かすこともできず、それが心のかせになっていたのだ。
 
受賞のスピーチを披露する場で、川田はカミングアウトをすることにした。集まった約50人の前に立つと、足が震えた。不安と緊張のなか、10分間のスピーチを終えると、大きな拍手が湧いた。握手を求める人までいた。「仕事で信頼を築いていたからこそ、うまくいったのかもしれません」と謙遜するが、その誠実でフェアな人柄は、ずっと前から川田を取り囲む壁を壊していたのだろう。
 
カミングアウトをしてからというもの、「仕事が順調にまわるようになった」と川田は言う。冒頭に述べた「能力の毀損」がなくなったからかもしれない。ありのままの自分を職場が受け入れてくれたこの日のことを、川田は「第二の成人式」と呼ぶ。
 
同じ年、川田が人事部門とともに取り組んできた、企業における日本初の同性パートナーシップ制度が実現した。
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「LGBTQ+であろうが誰であろうが、『あなたはあなた』と認める世の中になってほしい。そのために、これからも社内外に働きかけていきます」
 
目指すのは、すべての人がありたい自分のまま能力をフルに発揮できる社会だ。

FORBES JAPAN WOMEN AWARD 2024 インクルージョン賞

組織や社会全体のしあわせと成長の実現に貢献した人物に贈られる賞


かわだ・あつし◎1961年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、日本IBMに入社。2003年、社内でLGBTQ+に関する活動を開始。理解促進と制度拡充に取り組み、12年に同性カップルへの結婚祝い金、15年にパートナー登録制度を実現。22年より現職。

文=古賀寛明 撮影=小田駿一

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