オードリー・タン氏のチームはこの原則を生成AIの分野にも適用し、より広範な課題に対応している。昨年初めには「アライメント・アセンブリー」という新たな取り組みが開始され、ディープフェイクやSNS上の詐欺行為といった問題に対処するための活動が行われた。このプロジェクトでは、台湾の市民20万人にランダムにSMSを送り、これらの課題に対する意見を収集するとともに、AIを活用したオンライン議論に参加する意思を尋ねた。450人の参加者が台湾の多様性を反映した代表者として選ばれ、AIが議論をリアルタイムで補助・記録しながら、共通点を浮き彫りにし、実行可能な洞察を生み出した。
具体的には、あるグループが「Facebook上の広告にはデジタル署名を導入して著名人のなりすましを防ぐべき」と提案し、別のグループは「本人確認を怠ったプラットフォームは金銭的責任を負うべき」と主張。さらに、別の意見として「国家による監視を避けつつプライバシーを守るべき」との指摘もあった。これらの意見を言語モデルを使って統合し、今年5月には規制案がまとめられた。この規制案は議会で可決され、法律として施行された結果、Facebook上での詐欺行為が90%削減されるという成果を挙げた。市民の意見とAI技術を組み合わせたこの協働型政策アプローチは、従来のトップダウン型の方法よりもはるかに効果的であることが示されている。
このプルラリティ(多元性)を重視したアプローチは、TikTokのようなアルゴリズム依存型プラットフォームにも適用検討しているそうだ。研究によれば、多くのユーザーはTikTokを個人でやめると孤立感を覚え、続けるとプラットフォームの集団的な問題に加担するという「いずれにせよ負けるしかない lose-lose」状況に陥っている。この状況に対し、オードリー・タン氏は、ユーザーがオープンソースの推薦エンジンを選択できる仕組みを導入することで、搾取的なアルゴリズムから解放され、自身のつながりやコンテンツを維持しつつ、より協力的で社会的に有益なプロソーシャルなプラットフォームへの転換を可能にすると考えている。