ファッション

2024.12.23 14:15

ライフスタンスが「ドバドバ」と溢れ出すブランドの正体

tamaki niimeのLabの床に書かれたメッセージ。

商品管理についても、RFID(無線周波数認識)という最新システムを活用している。このシステムは一瞬で複数点を読み取ることができ、1点1点バーコードで読み取る必要がないので、圧倒的に商品管理の手間が省ける。これも、一点モノを売りにしている彼らならではの課題を解決しようとしたら、たまたま行き着いたのであろう。
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つまり彼らは、やりたいことを実現させるためにあれこれ創意工夫しているうちに、自然とビジネス的な経済合理を実現させているというわけだ。結果的に想いや熱意とビジネスをうまく融合させることになり、さらにやりたいことに邁進できたり、それがまた好業績に繋がるという理想的なサイクルを生み出している。

「バリュー」だけがある会社

tamaki niimeにはビジョン、ミッション、パーパスがない。あるのは「きもちいいはうつくしい」という標語と、「いきるための7ヵ条」のバリューだけだ。内容は「きもちよくいきよう」「明るくいきよう」「地球も動物も植物も同じ生き物、ともにいきよう」など、非常にシンプル。生きかたにフォーカスしているので、どちらかというと導きや道に近い。

そのようなこともあってか、スタッフの皆さんと接していても、Labやショップの空気感をみても、自然に染み付いている様子がうかがえる。これはtamaki niimeの個人を大切にする考え方と相性が良いからなのかもしれない。

代表の玉木新雌さんは全員個人事業主でいいくらいの考え方で、モノづくりの裁量もかなり個人に委ねている。お店の店長は実際に個人事業主だそうだ。それでいて全体的な空気感はきちんと統一されている。
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今後ますます自立分散型のワークスタイルや、個人事業主の集まりによるチームが増えていく中で、会社で定めるようなビジョン、ミッション、パーパスではなく、何か個人の集まりをまとめていくような機能が必要になるかもしれない。その際、このように同じような生き方や価値観を規定するような標語やバリュー、ある意味少しユルいまとめ役のような存在が重宝されるかもしれない。

もちろんビジョン、ミッション、パーパスを定めることが、会社やブランドにとって尊いことには変わりないと思っているが、事業の規模や方向性、組織形態などによって、時には違う在り方でライフスタンスを生み出すことも必要だろう。
代表の玉木新雌さん。美しい播州織のショールが並ぶ店内にて。

代表の玉木新雌さん。美しい播州織のショールが並ぶ店内にて。

tamaki niimeは、自分たちの思いを主張しすぎていたり、個性的すぎたりという印象を持たれる方もいるかもしれない。好き嫌いがはっきり分かれそうなブランディングではある。私も本来は「秘すれば花」じゃないが、語らずとも滲み出てくるような美しさが好みだ。連載でもいつも、普通にしていれば見過ごしてしまうような細部への研ぎ澄まされたアティチュードを探し当て、掘り下げていくアプローチを取っている。

しかしながら今回、tamaki niimeで直接的なメッセージや想いを浴びせられても、嫌な感じはまったくなかった。むしろここまでライフスタンスを全面に押し出していると好感が持てたし、そういった姿勢の裏でしっかりと経済合理性が追求されている様も感じ取れて、大いに心を揺さぶられた。

帰り道に改めて今回の体験を振り返ってみたところ、今度のForbesの連載で取り上げたいという気持ちが芽生えてきた。だとすれば、そのモードで話を聞いたり、写真を撮ったりすれば良かった……と少し後悔した。だがそれと同時に、事前に完璧に準備されたものを取材するより、むしろ偶然の出会いの中で、ある意味油断しているところにスッと入り込んでくるようなライフスタンスにこそ魅力があるのでは?とも感じた。

tamaki niimeのショールをスッと首に巻いた私は、いつになくホクホクしながら家路についた。

文=中川 淳 構成=国府田 淳 写真=tamaki niime提供

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