経営・戦略

2024.12.14 14:15

AIも半導体も後塵拝すインテル 凋落の裏に2000社投資したCVCの存在

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後の急成長企業にも投資していた

CVC投資を行ううえで本体とのシナジーを求めることはもちろん必要なことではある。ただ、より長期の未来を見据えた投資を行うとき、必ずしもそれが既存の事業戦略に沿うものではないケースもある。そうした投資を本体とは切り離した形で育てることができるのかどうか。これはCVCの役割というよりは、むしろ本体の経営戦略の話であり、既存事業を強化しながら新規事業も育てるという、いわゆる「両利きの経営」ができるかどうかが問われる。

インテルの場合、短期的にシナジーがないと判断した投資先を積極的に育てて本体に取り込むことをせず、IPOさせたり競合に売却したりして切り離してしまったことで、結果的に既存事業の拡大に偏った経営となり、テクノロジーや市場の新しい波に乗ることができなかった。

グローバルで2000社以上もスタートアップに出資していれば、技術や市場の流れを掴むことは他のプレイヤーに比べて容易にできたはず。米ソフトウェア大手のRed HatやVMware、米電子契約大手のDocuSignなど、その後大きく成長している会社にも投資をしていたので、そうした会社を手中に入れることもできたはずだ。結局、投資活動の中から長期の技術や市場の流れを察知し、勝者となり得そうな会社を育成し、それを最終的に本体に取り込むことで経営に活かすということができなければ、CVCの投資活動は一時的な財務的リターンを得るだけで終わってしまう。こうして得た財務的リターンが新規事業立ち上げのための投資に使われるのであればまだ良かったのかもしれないが、インテルはこれを株主への配当として還元してしまっていた。

CVCはつまるところ、いわゆるベンチャーキャピタルとは根本的に目指すべき目標が違う。どれほど投資家として評価されていても、財務的リターンを出していても、会社として次の世代の事業の柱を育てることができなければ、目的を達成したことにはならないのだ。

競合躍進の予兆を見逃すな

現在、多くの日本企業がオープンイノベーションやCVC投資、新規事業開発に力を入れている。これらは素晴らしい取り組みである一方、なかには短期的なシナジーや成果を求め過ぎたり、本来の目的を見失って、投資そのものが目的になってしまっていたりする事例が散見される。

CVC活動を含むオープンイノベーションの活動は、長期的な経営視点に立てば「次世代事業の創出」に尽きる。いまCVCをやっているのであれば、もう一度この原点に立ち返って、現在の活動が本当にこの目標に向かっているのかどうか見直してみてほしい。

またCVC活動も重要だが、最終的には経営者がCVC活動も含めた全社の戦略を考えるなかで、既存事業の見通しが向こう5年、10年でどう変わりそうか、テクノロジーや市場の流れと照らし合わせたときに、新しい波が来る予兆はあるのか、もしそこに何かが見えてくるのであれば、そこをターゲットにした新規事業創出に向けた思い切った経営判断をすることができるかどうかという点が重要だ。完璧な答えを求めてはいけない。インテルだってNVIDIAやTSMCの躍進の予兆を見ていたはずだが、その時点では既存のビジネスを覆すような経営判断はできなかったのである。答えが揃って結果が見えてきてからでは手遅れなのだ。

文=村瀬功

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