経済・社会

2024.12.04 19:15

尹錫悦大統領の戒厳令、妻を守るための権力の私物化だったのか

12月4日、韓国・ソウルの国会議事堂前で、尹錫悦大統領の辞任を求めるデモ隊が集まっている。尹錫悦大統領は12月3日深夜に緊急戒厳令を発令し、国民の怒りに火をつけ、議員たちは大統領弾劾訴追案の提出を促した。(Photo by Daniel Ceng/Anadolu via Getty Images)

一方、全斗煥氏は、尹氏よりも狡猾かつ周到だった。軍の要所にハナフェの関係者を送り込み、軍内部の反発を抑え込んだ。当時の政府内にも手を伸ばし、権力に挑戦する芽を摘み取った。これに対し、尹氏はわずか6時間後に非常戒厳の宣言解除に追い込まれた。韓国の憲法には、国会が戒厳令解除を求めた場合は従わなければならない、という規定が明記されている。尹氏は全氏のように軍や警察、情報機関などの全面的な支持を得ることもできなかった。1960年代から70年代にかけて朴正煕大統領の側近だった康仁徳元統一相は「結局、国民に自分が正しいと理解してもらうだけのために、非常戒厳という手段を取ったのではないか」と語る。
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しかし、すでに尹大統領の支持率は2割を切る状態に陥っている。しかも、集会や表現の自由などを制約する非常戒厳を、秩序ある生活を送っている国民が歓迎するはずもない。結局、「お友達人事」「忖度政治」を続けた結果、自分が裸の王様になっていることに気づかなかったことの悲劇と言えるだろう。

野党は4日午後、大統領弾劾決議案を発議した。与党「国民の力」(108人)のうち、10人前後が造反するだけで、弾劾決議は通過するだろう。今回の非常戒厳の宣言は、自由民主主義に対する挑戦とも言え、憲法裁判所が弾劾決議を認める可能性は高い。そうなれば、来年5月くらいには大統領選という事態になるのではないか。

すでに、米韓で予定されていた核関連協議が延期になった。スウェーデンのクリステション首相が今週予定していた韓国訪問を延期した。石破茂首相も来年1月上旬に予定していた訪韓を再検討せざるをえないだろう。
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尹氏の愚行は結局、北朝鮮やロシアを喜ばせるだけで、韓国の経済や社会生活に多大な迷惑をかける事態を引き起こしたと言えるだろう。

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文=牧野愛博

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