44歳で社長退任の理由とは
──川鍋さんは34歳の若さで社長になり、44歳で社長を退任して会長になっています。この理由は何なんですか?それはシンプルで、やっぱりITをやらないと生き延びられないと思ったからです。タクシー事業自体が半分ITになったので、ITをしっかり自分がトップとして身につけないといけない。
そう思ったとき、日本交通をデイリーに経営してくれる人は他にいくらでもいたので、素晴らしいプロ社長に来てもらいました。業績も大きく上がって、私は何をやってたんだろう状態です(笑)。
タクシーの未来を拓く「GO Reserve」と「GO Crew」
今、全国のタクシー事業者が乗務員の高齢化に悩むが、日本交通は2012年から計1400人の新卒採用を実現し、ITを使いこなす世代を多く抱えている。そして、「GO」アプリに加え、「GO Reserve」という新たな雇用形態を始めた。アプリからの注文だけを受ける専用車両で、「GO Crew」というパートタイム従業員が好きな時間で働く。ITを活用し、ドライバー不足を解消して、多様な労働力を確保する狙いだ。──川鍋さんは事業承継に成功しましたが、今後のモビリティの展望はありますか。
最大のテーマは地方です。東京では、日本交通の勝ち筋というかモデルが見えてきました。しかし、地方は過疎が進み、タクシーというものがすごく弱っている。
今、地方のタクシーというビジネスモデルが輝いていないから、乗り手が少ないんです。もう少しモデル自体が輝ければきっと働いてくる人はいるはずです。
──そういう意味でも、新サービスの「GO Reserve」と、「GO Crew」への期待が高まりますか。
そうです。パートタイムでドライバーを気軽にできるけれど、きちんと試験を受けている方だから、白タクではなく信頼性も高い。
「週に3時間だけでもやりたい」っていう人でも全然良いんです。実際に、午後はサッカーのコーチを本業でやっているから、午前しかできない人がいます。今までのタクシー会社だとだめでしたが、「GO Crew」ならできる。定年退職後も、自分のやりがいにっていう方も多いです。
地方活性化にもなるし、地方に行けば行くほど正直地理も分かりやすいですからね。
川鍋一朗◎1970年、東京生まれ。 1993年、慶応大学経済学部卒業。 1997年、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了、MBA取得。1997年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社し、コンサルタントして活躍。2000年6月、家業の日本交通株式会社に入社。2001年に専務、2004年に副社長を経て、2005年に業界最年少の34歳で代表取締役社長就任。大きな負債を抱えていた会社を大胆な経営改革で立て直す。2015年、代表取締役会長に就任。20年、JapanTaxi社とDeNAの「MOV」事業などを統合し誕生したMobility Technologies会長に就任。タクシーアプリ「GO」をリリース。23年8月、取締役となった。
(本記事は、事業承継総合メディア「賢者の選択 サクセッション」の記事前編、後編を編集しています。)