──社内のことが見えてくるようになりましたか。
見えてきました。「あれ、このハイヤーとかちょっと値上げしたらいいんじゃないですか?」とか、「この乗務員の配車のやり方、もうちょっと変えたらいいんじゃないか」とか。
さらに、若手の社員たちとご飯を食べると、「いや一朗さん、こういうのはね、こうやったらいいんですよ」みたいなアイディアがバンバン出るんです。「じゃあ皆さん、チーム組んでやりましょう」みたいに、熱が上がってくるようになりました。
そのあたりが、会社の底打ちのきっかけでした。多産多死というか、失敗は早いうちにやった方がいいということです。企業を承継する最高のメリットは、いくら失敗してもクビが繋がることだと思います。失敗から必ず学べるので、いかにたくさん失敗するか。
──面白いですね。ベンチャーで大きな失敗をすると、資本が無くなっておしまいですが、既存の企業の承継者はそれなりに失敗しても大丈夫だということですか。
4億5000万円を溶かしても大丈夫です。復活のチャンスがいくらでもあるので、手さえ動かせばどこかで絶対当たります。企業の承継者ほど、早くどんどん失敗した方がいい。それができる立場ですから。
DeNAと激変させたタクシーのビジネスモデル
──日本交通はそうやって復活し、大成功しています。また、川鍋さんは自分でもタクシーを運転したのですね。1カ月間、「タクシー王」と呼ばれた祖父のような現場感覚を身につけるため、乗務員をしました。
──そのころ、強力なライバルが出現したとか。
アメリカにUberっていう会社があるらしい、タクシーという存在が根底からひっくり返るかもしれないという噂を聞きました。Uberは、普通のお兄さんがマイカーで「ハーイ!」とか言ってタクシーをやっている。めちゃくちゃ脅威ですよ。
──普通の車がタクシーの代わりをするわけですから。
そうなんです。タクシー事業が、半分IT大陸に乗り上げちゃったなと。ビジネスモデルの半分、特に一番大事なお客様とのマッチングの部分が、全部テクノロジーに飛んで行きました。以来、ITを本業として捉えるという状況になったのです。
──そこからDeNAと連携することになるのですね。
当時、DeNAの作った「MOV」っていうアプリが彗星のごとく現れました。こっちは何かクラシック・トラディショナル、向こうは新進気鋭かっこ良い。強みと弱みが全然違うけれど、ぶっちゃけカチンとはまるなと。
──互いに補完関係になるだろうと。DeNAトップの南場智子さんは、マッキンゼー時代からの知り合いですね。
知り合いというと少々おこがましい。向こうは取締役クラス、こっちはぺーぺーですから。だけど、タクシーという土俵の上では、こっちが祖父から血を引き継いでいるわけですから、うまくプライドもぶつかり合って連携できました。
そして、日本交通系のアプリ「JapanTaxi」とDeNAの「MOV」が事業統合し、タクシー配車アプリ「GO」が誕生したのです。