なお悪いことに、ミゾラム州には「ティンタム(thingtam)」と呼ばれる現象もある。これもマウタムと同様の現象だが、原因となる竹がホウライチク属の別の竹Bambusa tuldaだという違いがある。この竹にも固有の開花周期があり、約30年おきに一斉に開花する。
他地域でも、エチオピアのArundinaria alpina、日本のホウライチク属のように、竹の一斉開花、結実、枯死のサイクルが記録されており、いずれもネズミの大増殖と生態系の混乱を伴う。
大発生を超えた「ネズミの洪水」
竹の種子をむさぼったあと、ネズミたちは大挙して集落を襲う。学術書『Rodent Outbreaks: Ecology and Impacts(齧歯類の大発生:その生態学と影響)』に収録された論文によれば、ネズミの洪水により、バングラデシュのチッタゴンではネズミが竹の種子の30%以上を食べ尽くした記録がある。竹の種子のマスティング(周期的大豊作)の際、ネズミの個体数は急増する。豊富な餌のおかげで繁殖ペースが上がり、共食いなど本来の個体数抑制機構が作用しにくくなるためだ。クマネズミなどの種の個体数は、現地住民が「ネズミの洪水」と呼ぶほど爆発的に増加する。
そして、影響は森を超えて広がる。竹の種子が枯渇すると、いまや数百万匹に膨れ上がったネズミたちは新たな食料源を求めて集落へと大移動を開始。田畑や穀物貯蔵庫を荒らし、行く手にある何もかもを食い荒らす。
被害は作物にとどまらない。ネズミが爆発的に増加すれば、ネズミの媒介する感染症のリスクも上昇する。ネズミからヒトへと伝染する腺ペストやハンタウイルス感染症といった病気も流行しやすくなるのだ。
竹の開花、ネズミの洪水、作物の凶作というサイクルは、生態系全体を荒廃させる。農家や村人たちは、食糧難だけでなく、健康リスクと貧困にも直面する。