この種子は1980年代後半にユダヤ砂漠の洞窟で発見され、放射性炭素年代測定からおよそ1000年前のものと推定されている。現在のイスラエル、パレスチナ、ヨルダンを含む南レバントにかつて自生していた樹木のものとみられ、一帯で見つかったのは初めてだ。
2センチほどのこの種子は検査でまだ生育可能と判明したため、研究チームは植えて注意深く世話をしてきた。発芽には5週間ほどかかった。14年後の現在、木は成熟期に達している。研究チームは、香料などに用いる樹脂バルサムをイスラエル王国のソロモン王への贈り物としてアラビアから持ち込んだ女王にちなんで、この木を「シェバ」と名づけた。
シェバは3メートルほどの高さに育っていて、淡い緑褐色の外樹皮は薄い紙のように剥がれ、その下に、光合成をしていると考えられる暗緑色の内樹皮が現れる。シェバは落葉樹で、気温が低下する12〜4月に葉を落とすという。
「シェバはコンミフォラ(ミルラノキ)属に属し、独特な遺伝的特徴をもつ未知の種で、かつてこの地域に自生し、絶滅した分類群である可能性がある。その樹脂『ツォリ』は聖書の中で癒やしに関連した貴重なものとして言及されている一方、香りがあるとは記述されていない」と研究チームは論文に書いている。
DNA解析の結果、シェバはコンミフォラ属の独自の種であることがわかった。コンミフォラ属の木はアフリカ大陸やマダガスカル島、アラビア半島に分布し、乾燥に強く、芳香性のガム樹脂で知られる。コンミフォラ属は190種ほどが知られていて、乳香や没薬が採れる樹木などが含まれるカンラン科の顕花植物では最も種の数が多い。芳香性の強い種から採れる芳香性樹脂は歴史的に、さまざまな香料や医療用途のため重宝されてきた。