こうした豊富な化学物質が、ある種の地下生命の方向へとすでに進んでいるかどうかについては、意見が分かれている。だが、タイタンの表面は、石油業者にとっては夢のような世界だ。メタンやエタンなど、あらゆる種類の原油化合物でいっぱいなのだ。
これまでのところ、タイタンは、生命が誕生するまでの地球史に関する知識を与えてくれる可能性があるという点では、最も魅力的だといえるだろう。
主に太陽光によって引き起こされるメタンとの反応で、非常に多種多様な複雑な分子が生成されることがわかっていると、NASAのゴダード宇宙飛行センターの惑星科学者コナー・ニクソンは、オーストリアのグラーツで行った最近の取材で語った。
タイタンは、直径が月より1500kmほど大きい。
ニクソンによると、濃密で不安定な大気を持つことが知られている、太陽系内で唯一の衛星だ。また、地下深くに液体の海があり、生物にとって好条件の環境を提供している可能性があるという。
タイタンには平原や、赤道域の広大な砂漠、数百kmにわたり伸びる山脈などがあり、これらはオレンジ色の厚い大気から表面に運ばれた有機物質でできていると考えられている。けれども、この衛星は地球とは大きく異なっている。
タイタンに前生物的化合物が存在するか?
ニクソンによると、炭素が六角形の環状構造をなすベンゼンは、すでにタイタンで検出されている。正確には「生命の分子」ではないが、これによってタイタンで環状分子が形成される可能性があることがわかると、ニクソンは説明している。ピリジンやピリミジンなどの窒素含有多環芳香族炭化水素(PANH)は、ベンゼン環の炭素原子の一部が窒素原子に置き換わった構造を持つため、ベンゼンよりもう一段複雑になっている。ニクソンによると、PANH分子は、タイタンでは明確に検出されているわけではなく、存在が強く示唆されている。PANH分子は、核酸塩基に一歩近づいているため、宇宙生物学にとって非常に興味深いという。核酸塩基は、窒素を含有する生体分子で、リボ核酸(RNA)やデオキシリボ核酸(DNA)の構成要素だ。