サイエンス

2024.10.30 12:30

「ジェットエンジン並みの音圧」を発生させる全長わずか12ミリの魚

Beta Mahatvaraj, Wikimedia Commons

しかし、このメカニズムは大きな音を生み出すだけではない。筋肉は、素早い筋収縮を持続させられるように適応しており、最大100ヘルツの繰り返し周波数でクリック音を発生させることができる。このクリック音の繰り返しが、連射的な音の連なり(バースト)となり、水中世界を衝撃波のように切り裂く。それによってこの小さな魚は、サイズに比して最も大きな音を発する生物の一つとなっている。

大きな音を出す理由

ダニオネラ・セレブラムにとって、この大きなクリック音は、ただの雑音ではなく、生存における重要なツールだ。この生物種の社会行動や繁殖行動において、特に求愛の際には、音が不可欠な役割を果たしている。音を出すのはオスだけだが、オスが最も活発に音を出す真昼ごろは、メスが最も生存能力の高い卵を産む時間帯に当たることが、研究で判明している。
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この音響信号は、オスがメスを引き寄せ、ライバルに対して優位性を主張するのに役立つ。視界が制限されがちな濁った水中環境において、音は、これらの魚が効率的にコミュニケーションを取る手段となり、オスが自分の存在を広範囲に知らせることを可能にする。クリック音が大きいほど、パートナー候補の注意を引く可能性が高くなる。

しかし、この小さな魚が大きな音を立てる理由は求愛だけではない。大きな音は、捕食者に対する威嚇にもなると考えられる。この魚が生息する淡水の水域では、小さな体は弱点となりかねないが、大きな音を立てれば、捕食者を混乱させたり驚かせたりして、逃げるための貴重な時間を稼ぐことができる。

その驚くべき音響能力によって、ダニオネラ・セレブラムは、神経科学や進化生物学などの分野における研究の焦点となっている。透き通った体のおかげで、侵襲的な手術を施すことなく魚の神経経路を調べることができるので、脊椎動物が音を生成し処理する方法の理解に役立つ、貴重なモデル生物となっている。
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ダニオネラ・セレブラムの研究が進むことで、動物の幅広いコミュニケーション原理について、より深い洞察を得られることが期待される。この魚は、どんなに小さな生き物であっても、自然界に対する我々の理解に大きな影響を与える可能性があることを物語っている。

forbes.com 原文

翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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